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犬(いぬ)と犬(けん)
 日本犬の天然記念物指定順をみますと、秋田犬が最も早く昭和6年で、以下、紀州犬と甲斐犬の昭和9年、柴犬の昭和11年、四国犬と北海道犬の昭和12年の順となっています。これら日本犬の中で秋田犬と柴犬を除いては、一般に○○「犬=けん=」と呼びます。

 秋田犬発祥地の秋田県大館市とその周辺住民は、秋田犬を飼育していない一般市民もごく普通に「あきたいぬ」と呼び、県外から転入して来られた方などごく一部を除けば「あきたけん」とは呼びません。大館市に本部を置く秋田犬保存会も名称は「あきたけんほぞんかい」でなく「あきたいぬほぞんかい」、同市の秋田犬会館も「あきたいぬかいかん」です。

 これは、秋田犬の正式呼称はまぎれもなく「あきたいぬ」だということを意味しますが、秋田県以外に住んでおられる、秋田犬飼育者ではない、いわゆる素人さんは「あきたいぬ」ではなく「あきたけん」と呼ぶ方が多いようです。事実、当クラブを通じて初めて秋田犬を購入なさる素人の方は10人中ほぼ全員が「あきたけんの子がほしいのですが」と切り出します。

 一方、海外に目を投じますと、外国人は秋田犬を「Akita inu」「Akita dog」「Akita」の3種類のいずれかで呼び、「Akita Ken」とは呼びません。秋田犬やハチ公の研究者は日本国内には数えるほどしかいないのに対し、海外には意外なほど多い状況からしましても、海外では「秋田犬(あきたいぬ)は秋田犬(あきたけん)とは呼ばない」という考え方がすでに定着しているようです。

 ではなぜ、秋田犬は「あきたいぬ」と呼ぶのでしょうか。推測の域を出ませんが、方言、秋田弁と何らかの関係があるのではないでしょうか。例えば、大館周辺では時おり、柴犬を「しばいぬ」、土佐犬を「とさいぬ」、さらには雑種犬を「かめいぬ」などと呼んだりします。柴犬は全国的には「しばけん」が多数派のようですが、同周辺に限らず地方や世代によっては「しばいぬ」と呼んでいます。

 また、当地では人の苗字でも「松田」は「まつた」、寺田は「てらた」、沢田は「さわた」などと、一般的に「た」に濁点が付いているのを付けずに呼んだりします。「でも、それだと、あきたけんをなぜあきたいぬと呼ぶかについての解答が示されていませんよ」と言われそうですが、大館周辺の人々は何の理屈もなく自然に「あきたいぬ」と呼ぶのです。

 県外から秋田犬の見学に訪れた人が「この、あきたけんの子、可愛いですね」というと、土地のオーナーは「あきたいぬと呼ぶんだよ」と訂正してみせます。なぜ秋田犬が「けん」ではなく「いぬ」なのか、秋田犬発祥地に住んでいる人々にとって「なぜ」はそれほど重要なことではなく、「そう呼ぶ」ことが「当たり前」なのです。例えは飛躍しますが、1+1=2に対して数学者は「なぜ」に言及しますが、一般の人は「だって、そうなんだもの」で事足ります。「あきたいぬ」もそれに近いのではないでしょうか。

 大館のある大ベテランオーナーは、こんな"説"を示しています。「秋田県もあきたけん、秋田犬もあきたけんと呼んだら、どっちのことを言ってるのか、わがらなくなってしまうスべぇ」と。とはいえ、秋田弁、共通語に限らず「秋田県(あきたけん)」は「た」の音にアクセントがあり、秋田県民が秋田犬を強いて「あきたいぬ」ではなく「あきたけん」と表現すれば共通語とほぼ同様に「け」にアクセントがあるため、音声的に双方の違いは分かります。これからすれば、前述のベテランオーナーの"説"は必ずしも的を射ていないかも知れません。

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