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考察・ハチ公像論

 大館市の秋田犬会館前には、2004年10月10日に建立されたハチ公銅像(左写真)があります。同一原形の像が1935年、JR大館駅前に設置されたのですが、太平洋戦争末期の1945年に金属撤収令で姿を消し、台座だけが残っていました。この台座に59年ぶりに"主"のハチ公を、多くの人々の浄財によって復活させたものです。

 像は晩年のハチ公をイメージし、「望郷のハチ公」と命名されました。大館市に事務局を置く当クラブとしても新たなハチ公像は喜ばしいのですが、これを日々眺めている市民や観光客の一部からは「何となくハチ公っぽくない」との声も聞かれるため、像にケチをつけるということではなく、意見、感想などをもとにしながらこのコーナーでは像について客観的に論じてみます。

 
 右の写真はご存知生前のハチ公。野犬に襲われた際の痛手がもとで、晩年の彼は左耳が立つことはありませんでした。渋谷のハチ公像も左耳が前に倒れているほか、座った姿をほぼ忠実に再現し、優しい目が見る人の心を癒しの世界へいざなってくれます。

 これに対し、大館市に登場した新ハチ公像(上写真)はハチ公の"顔"が基本的に再現されていないばかりか、全体が与える印象もウエイトトレーニングでビルドアップでもした土佐犬をほうふつとさせます。当然のことながら毛のふっくら感を銅像で出すのは至難の技ですが、それにしても、このアップ写真から受ける印象はいかつい以外の何ものでもありません。観光客の一部からも「ちょっと、いかつい」との声が聞かれます。渋谷のハチ公像に似せる必要はないまでも、全体がかもし出す雰囲気が今ひとつ秋田犬を想像させない、という点を皆さんはどう考えるでしょうか。

 
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生前のハチ公
 この写真は、新ハチ公像を真後ろから撮影したものです。いくつかの疑問点を挙げることができます。第1点、なぜ尾がさながら象の鼻のように太く、先端が丸いのでしょうか。秋田犬の尾は、繊細かつ力強いという一見矛盾した魅力を兼ね備えています。体の大きさに対する足の太さ、長さ、関節の雰囲気も、この像は本来の秋田犬とは異なります。

 かつ、作者は躍動感を出そうとしたのかも知れませんが、これでは秋田犬を見たことのない人が「秋田犬の尾はふだん垂れている」と誤認しかねません。また、尾の巻き方は左巻き、右巻き、太鼓巻きと、その形によって3種類のスタイルがありますが、このような静止作品で巻いてもいない、垂れてもいないという"中途半端"な形では、やはり誤解を招きます。

 極め付けは、この像を建立した位置。大館の中心を走る国道7号を高台から見渡しているという構図はまずまずとして、なぜハチ公の眼前に電柱がどかんと建っているのでしょうか。観光などでこの光景を見た人の多くは、閉塞感を覚えるこの電柱に不快の念を禁じ得ないどころか、これでは"大館人"の美的感覚すら疑われかねません。ハチ公が今の時代に生きていたら、「おいおい、こんなもの、ぼくの目の前に置くなよ」と、顔をしかめることでしょう。事実、ある観光客は「あれ、邪魔」と、あっさり言い放ちました。

 左斜めから見た新ハチ公像。秋田犬独特のふっくら感を出せず短毛犬のようなイメージなのは銅像という材質上致し方ないにしろ、後ろ脚から腰、背中にかけての筋肉隆々ぶりは、やはり秋田犬というより土佐犬を思わせます。

 秋田犬はこのようにごつい体つきはしておらず、むしろとてもナチュラルな筋肉のつき方で、穏やかな印象です。それは、一撫でしただけでわかります。また、前述のように秋田犬の尾はこれほどの太さではないばかりか、均一の太さでもありません。

 除幕の際、大館市長はこの像を市のシンボルとして後世に引き継ぐとの"決意"を示しました。一部の観光客からは「これ本当にハチ公? 渋谷のとずいぶん違うね」という声も聞かれる中、秋田犬にふだん接してもいない市長の見解には疑問を呈さざるを得ません。

 渋谷のハチ公像=韓国・エピソード社刊「全世界の子どもたちを感動させた偉大な犬の物語(邦訳)」より=。

 かもし出す雰囲気は大館のハチ公像とまったく異なり、安らぎさえ感じさせてくれます。また、立ち姿よりも安定感があり、眼の形や毅然とした口元が生前のハチ公を余すところなく表現しています。新ハチ公像は荒削り感があるのに対し、渋谷のハチ公は精緻なタッチといえるのではないでしょうか。
 
 
 
 

※冒頭にもありますように、このページの趣旨は作者や作品にケチをつけるものではなく、世界的にも有名なハチ公が21世紀の現代に忠実な姿で再現されていないことを指摘する一部市民、観光客などの声をもとに一石を投ずるものです。ハチ公像制作にかかわった個人、団体の名誉、プライバシーに配慮し、一切の個人名、団体名を伏せています。

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