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虎で勝つ「格」

 秋田犬の本部展覧会は、毎年春と秋に開かれる。春は5月3日に秋田犬発祥地である大館市の桂城(けいじょう)公園が会場の定番で、秋は関東以南が会場となる。本部展での勝利に情熱を燃やす者なら、誰もが知っていることがある。本部展のレベルは、秋とは比較にならぬほど春の方が高いということ。ゆえに、秋田犬の世界で最高の賞となる「名誉章」も春で勝ち取ったか、秋で勝ち取ったかで重みが違う。

 大館で春の本部展を観戦し続けていると、あることに気づく。虎が、赤に太刀打ちできなくなってきている。赤を押しのけ、虎が1席をもぎ取れる割合は低い。2席、3席までは迫るものの、なかなか1席を手中に収めることができない。

 桂城公園から徒歩1分ほどの位置にある秋田犬会館の博物室には、歴代名誉章の写真がずらりと展示されている。プロ野球に置き換えれば、さしずめ「殿堂入り」。秋田犬飼いにとっては文字通り最高の名誉で、手塩にかけて育て上げた愛犬の雄姿がここに飾られる日を夢みて心血を注ぐベテランも少なくない。

 過去の名誉章を振り返ると、以前は虎の受章犬も少なくなかった。しかし、ここ何年も虎は名誉章どころか1席獲得もむずかしい状況だ。なぜ出にくいのか。この疑問を、かつて20年間にわたって全国で最も厳しい審査員として鳴らし、現在も審査員の指導的立場にある秋田犬界屈指の大御所にぶつけてみた。

 「虎が赤より劣っているのではない。作り上げるのが、格段にむずかしいのだ」。大御所の弁。まず、顔。虎に優れた赤の顔を作り出せたら、1席に手が届くだろう。しかし、それは口で言うほどたやすいものではない。

 すばらしい顔を作り上げるために、虎を赤と交配すると、往々にしてどぎつい色合いの赤虎が生まれる。それでいて顔がいいかといえば、その保証はない。血統を熟知した上で、祖父母あるいは曾祖父母の代に赤と白の血をタイミングよく入れることで、顔良し色良しの虎が稀に生まれることがある。が、それも低い確率。1+1=2、の足し算どおりいかないのが交配だ。

 顔だけではない。虎の毛質は、硬くなくてはならない。無論、赤と同様に優れた構成も求められる。虎には、赤以上に高いハードルが待っている。

 本部展を赤で制するのと虎で制するのとでは、いずれが上であるかを前述の大御所に訊いてみた。50年以上の経験に裏打ちされた言が返ってきた。「格が違う」と。虎で頭を獲る方が赤で獲るよりも、何倍も格が上、という意味である。理由は明快だ。「作り上げるむずかしさが違う。虎を作れないから、多くの者が赤で勝負をかけてくる」。本部展の出陳数は赤が断然多いことでも、それはうなずける。無論、「自分は虎よりも赤が好きだから、展覧会には赤で挑戦するのだ」という人もおろうが。

 かつては、虎一筋に一生をかけ、歴史に残る傑作を作り上げた先人が全国に散在した。しかし、今は勝ちを急ぐ傾向が強い。秀逸な虎を作り上げるには、赤の何倍もの忍耐と努力、たゆまない研究心が求められる。ゆえに、眼は赤に向きがちだ。いかにして虎で勝つか。ある意味では、これこそが勝負の真髄かも知れない。

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