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「なちゃがる」

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「もぐ」って?「犬をたでる」など、当地で使われる方言を先のコラムで紹介したが、面白い響きをもつ言い回しをもう一つ取り上げてみたい。

 今回は「なちゃがる」。「なっちゃがる」と言う人もいる。とりあえずは「なちゃがる」に統一し、少しばかり考察を試みたい。

 冒頭の「もぐ」や「犬をたでる」は、一定年齢以上の人以外は秋田県民でもほとんど使わないであろうと先のコラムで述べたが、「なちゃがる」を発する人はさらにマイノリティー(少数派)かも知れない。

 「なちゃがる」は、左の写真のようなイメージではないだろうか。変化形には「なちゃがって」などの言い回しがある。最もよく使われるのは、犬と人間のコミュニケーション的状況を示す場合と思われる。 

  大館の方言による、実際にあった使用例を挙げてみよう。秋田犬を迎えたいと考えていた方が、当地の繁殖者のもとを見学に訪れた。繁殖者は当初、売るつもりはなかったが、結果としてお客さんのもとへ旅立たせてしまったという話。

 「あの犬、お客さんサ、まんず、なちゃがってしまってハァ。お客さんも、しこたま気に入ってしまったもんだがら、出すつもりねがったやづ、とうとう行ってしまったで」

 共通語に訳すと、おおむねこのような意味になる。「あの犬、お客さんにとてもなついてしまってね。お客さんも大変気に入ったものだから、(あの犬を)出すつもりはなかったのだが、とうとう行ってしまった」

 「なちゃがる」は、強い親愛の情のような仕草をうかがわせる場合に使用する。アクセントは「ちゃ」の部分にある。一言では「なつく」となろうが、立ち上がってスキンシップをはかろうとする行為など、積極的なアクションをさす場合が多い。表面上は「人間に対し、とても楽しそうにじゃれる」に近いかも知れない。まさに、上の写真のようなイメージであろう。

 秋田犬を含む犬全般に「親愛の情」があるのかどうかは、実際には犬になってみないと判らない。ただ、明らかに「ある」と思える場面に遭遇することはあろう。また、人間が翻訳できないだけで、犬には犬同士の完璧な言語体系が存在するのではないか。単に、わんわん吠えたり、くーんと鳴いたりしているのではなかろう。何を言っているのか理解できぬまでも、飼い主は「お腹が減っているのだな」や「散歩に連れて行ってほしいのだな」など、鳴き声や仕草で胸中を察する。

 飼い主が亡くなったり、病床に臥している場合など、彼らは悲しそうな表情をする時がある。犬の知能レベルは「人間の幼児程度」ではなく、もっと高いのかも知れない。入院や他界など、何かの事情でずっと主人がいなければ、元気をなくしたような様子をうかがわせることもある。渋谷駅に行けば必ず主人に会えると"信じて通い続けた"ハチ公などは、飼い主を"思う"典型的な例ではなかろうか。

 人によって「なちゃがった」り、そうでなかったりするのも、「この人はいい人のようだ」とか「この人は、いけ好かない」といった情動の表れ、と思いたい。秋田犬が家族の誰にでも「なちゃがる」なら、その家族はとても良い家族、と自信を持っていいのではないだろうか。「ぼくは(わたしは)、みんなと一緒にいられて本当に幸せなんだよ」と言っているようで……。

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