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大館人の「カメ犬」

「カメ犬」の意味については、諸説あるようだ。秋田犬に絞ったテーマではないが、この「カメ犬」、大館周辺ではどのような"トーン"で使われるか、少しだけ考察を加えてみたい。

「カメ犬は『噛め犬』の意味ではないか」「カメ犬は洋犬をさすのではないか」「カメ犬は小動物の狩猟犬の総称ではないか」「カメはcome(来い)に起因する外来語ではないか」「古くからオオカミをカメと呼んだ」などいくつもの見方があり、学術的にも議論がなされているように思われる。

 大館周辺では、どのような意味合いで「カメ犬」を使ってきたのであろうか。まず、例(たと)えを紹介してみたい。「あんだは、どういう秋田犬飼ってらスか?」と、秋田犬オーナーが訪問者に訊ねた。これに対して訪問者は「オラ家(エ)のは、カメ犬だス」と答えた。"共通語訳"すると、おおむねこんな意味になる。「あなたは、どのような秋田犬を飼っているのですか?」という問いかけに対し、「うちにいるのは、カメ犬です」と返す。

 あくまで受ける印象にすぎないが、大館周辺の人々は「カメ犬」の意味そのものを理屈で考えることなく、ごく自然に口にするように思える。不思議なことに、疑う余地なく共通の認識、つまり同様の意味がある。

「オラ家(エ)のは、カメ犬だス」の言い回しを入れ替えてみよう。「オラ家(エ)のは、雑種だス」。このように、大館周辺では「カメ犬」に「雑種」という意味をもたせる傾向が強い。無論、100人いれば100人そうとは断定できないものの、「よそから来た人」ではなく「生粋の土地の者」はそうなのではないか。「カメ犬」の学術的意味はさほど重要ではなく、大館周辺では「雑種」という意味にほぼ統一されている、との見方に異論を唱える土地の者はほとんどいないのではないか。

 しかし、ただ「雑種」ではない。対外的にはわずかに卑屈なトーンを感じ取れる。「純粋種」の秋田犬に対して「雑種」。飼育者は胸を張って「カメ犬」とは言わず、「ただのカメ犬」「しょせんカメ犬」的な含みをもたせている。そして、現代風の表現である「ミックス」ではなく「雑種」の意味がふさわしい。

 前述の秋田犬オーナーが「カメ犬でねぐ、秋田犬飼ってみれば、どおだスか」(カメ犬じゃなく、秋田犬を飼ってみたらどうですか)と言ったとする。相手が不快に感ずる可能性があるため、明確に口にこそしないが、そこには「カメ犬なんか」というニュアンスが微かに存在する。

「カメ犬」は大館周辺でもかなり馴染み深い表現だが、"世代の断絶"は否めない。若年層は「カメ犬」を使わない傾向にあり、小学生ぐらいになると口にせぬどころか、聞いたことすらないのではないか。最も自然に口をつくのは、いわゆる「じさま、ばさま」の世代。

「カメ犬」の意味に対し、学術的見地からいろいろな議論がなされているのは興味深い。"真"の意味とは関係なく、大館周辺で独特の意味をもたせているのも興味深い。"大館人"が考える「カメ犬」は大館にもたくさんおり、白や黒、茶色の「カメ犬」の綱を引いて爺さん、婆さんがのんびりと散歩をする光景を見かける。

 彼らの名前はほとんどが単純明快で、「コロ」や「シロ」「タロ」「チビ」などと呼ばれる。そうした「カメ犬」との散歩風景はときに、日本の原風景とも重なったりする。とても地味なようでいて、「カメ犬」の存在意義は大きい。

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