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わさおの出自

  わさおの出自につながる作出者を、ようやく特定した。無論、"犯人探し"ではないため、人物を示唆する表現など、するつもりはない。公表されようものなら、「秋田犬飼いの風上にもおけない奴」といった類の投書などが全国から多数寄せられるのは疑う余地もない。当然のことながら本人は「悪いことをしたと思っている。けど、そっとしておいてほしい」というのが本心であろう。良い意味で有名になったなら、「私が作り出した犬です」と大手を振ってみずからを公表するだろうが、「捨ててきた」という重荷が背にのしかかっているため、公けになることは生涯なかろう。

 2012年5月にわさおのもとを初めて訪ねて以来、誕生犬舎を特定するまで1年5カ月を費やした。青森県内に、長毛の秋田犬を送り出すことで知られる繁殖者がいる。当クラブは当初、その人物と察しをつけ、ある日、鎌をかけてみた。「わさおの親は、まだいる? いたら、見たいものだね」。が、とんだ肩透かしだった。「わさおって、あのわさお? 俺んとこで生まれた犬じゃないよ」。何度か会い、互いにため口で話す関係。気さくな人柄で、嘘とは思えなかった。

 誰がわさおを誕生させたか、もさることながら、それ以上に関心があったのは親についてだった。彼の眼の鋭さは白毛ではく、赤毛特有のものと初対面時に考えた。交配は赤毛×白毛、または赤毛×赤毛で祖父母のいずれかに白毛がいるとの予想。その見立てが正しいか否か、親に直接対面して確認したいと思っていた。また、親は良質な血統の犬と推察していた。

 肩透かし以降も、ベテラン飼育者らへの"聞き込み"を続けた。そしてついに、秋田県北部の重鎮が決定的な証言をしてくれた。「わさおを作り出したのは○○だよ。お前だろって問い詰めたら、バツの悪い顔で、実は俺んとこで産まれて、鯵ヶ沢に捨ててきた、と白状した」。

 ○○氏の名はこれまで何度となく耳にしてきたが、面識はなかった。わさおが暮らす犬舎と、さほど遠くない位置に住んでいる。親が今も健在なら、誰かを介して訪問し、いずれ対面できるかも知れない。

 2013年10月3日、NHK総合テレビ午前5時台のニュースで、ある特集が関心を誘った。青森県動物愛護センターでやむなく殺処分される犬の骨が廃棄物として扱われることに衝撃を受けた三本木農業高校の生徒らが、同センターから骨をもらい受け、細かく砕いて花の肥料として再生。1匹でも多くの犬猫たちが捨てられることなく幸福に暮らすことを願い、1鉢ずつ育てた花を道行く人々に手渡していた。「命の花プロジェクト」と名づけたこの取り組みは、2012年に始まったという。

 偶然のめぐり合わせで、わさおは○○氏に捨てられながらも幸運を得た秋田犬だが、動物愛護センターに収容された犬猫の多くは次の飼い主に出会う機会もなく、命を絶たれる。運が悪ければ、わさおも同様の運命をたどっていた。三本木農業高校の生徒らの取り組みはささやかながら、他校にも広がる兆しをみせているという。「わさおが暮らす青森」と無理に結びつけられないにしても、青森県の若い力によるこの取り組みは、深い意義を感じさせる。

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