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「もぐ」に"市民権"

 2015年秋、秋田犬展覧会に興味深い動きが出てきた。「わさお」の生まれ故郷、津軽で11月に秋田犬の長毛犬コンテストが開かれる。東北北海道総支部展という本部展に準ずる大会と同会場なため、いわば「正統派」の秋田犬と同様に"市民権"を得ての開催だ。

 「もぐ」って?と題するコラムで取り上げたように、東北では一定の年齢以上の人らを中心に長毛犬を「もぐ」と呼ぶことが多い。秋田犬展覧会最高峰に位置付けられる「名誉章」や本部展での1席獲得に長年情熱を傾けるベテラン犬舎は、自犬舎で「もぐ」が生まれると、「大会で使い物にならない」と落胆する。

 一方で、長毛秋田犬には「わさお」に代表されるような独特の"風情"があるため、展覧会とまったくかかわりのない人らの中には、あえて「もぐ」と暮らす例も全国には少なくない。わさおを紹介している当クラブは、長毛秋田犬を礼賛もしなければ否定もせず、あくまで客観的に見ているつもりである。

 「津軽で、もぐの大会やるはんで」。火付け役のAさんが、受話器の向こうで生え抜きの津軽弁を放った。Aさんは高視聴率を誇る民放の動物番組に複数回出演したことでも知られる一方、たとえ長毛犬であっても本来の秋田犬と同様命を永らえてほしいとの願いから「もぐ」を希望者のもとへ旅立たせており、それを苦々しく思う輩が「2ちゃんねる」などで辛辣にこきおろしたりしている。

 そうした"逆風"にもめげず、Aさんは長毛秋田犬コンテストの実現に奔走してきた。「もぐも可愛いんだよ」という単純な発想ではなく、彼には独特の考え方がある。「ヨーロッパなど外国では、産まれたのが『もぐ』との理由で命を絶つことはできない。それは日本以上に厳しい」と前置きし、なぜ初開催を決意したかを語った。

 要約すると、こうである。日本から海外に旅立った秋田犬が、「もぐ」を産んだとする。産まれた長毛犬を日本人が"欠陥品"として否定するなら、その"欠陥品"を生み出した犬をなぜ売りつけたのか、となる。つまり、「もぐ」は決して"欠陥品"ではないことをまず日本人が認知しなくてはならない。

 そのための取り組みとして「わさおの里」青森で長毛秋田犬のコンテストを初開催するというのである。「『もぐ』を大切にしない日本の現状に対し、いずれ海外の秋田犬愛好家から批判を浴びるのは目に見えているし、事実、一部からそうした声も聞かれる」と、Aさんは力説する。わさおが「ブサカワ」などと揶揄されるように、長毛秋田犬が単に可愛いからではなく、日本人が海外から白眼視されないようにするための取り組み、と解釈できる。そうした彼の信念に共感できるゆえに、当クラブもコラムで取り上げるに至った。

 注目すべきは、何人かのグループがこじんまりとどこかで開くのではなく、97回の長い歴史を誇る東北北海道総支部展との抱き合わせで開催するという点。「『もぐ』など何ら価値なし」と言ってはばからぬベテランたちが少なくない中、同時開催はある意味快挙で、"保守派"を説き伏せるために彼が奔走したことの表れともいえる。

 ただ、あまり宣伝活動をしていないため、第1回の開催は「10頭も参加すればいいところ」と控えめだ。海沿いの町、鯵ケ沢町からわさおも"応援"に駆けつけるという。このコンテストは成長していくのか、最初で最後となるのか、今後に注目したい。東北北海道総支部展は11月15日に開かれる。

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