秋田犬を一つの生命として論じた場合、どの子にも優劣などつこうはずはなく、どの犬もすばらしい"宝物"です。しかし、人間の世界でも同様なように、「競い合う」という観点に立ちますと、シビアな勝負が存在します。秋田犬の「競い合う」場といえば、紛れもなく展覧会という"ステージ"でしょう。
そうした前段を踏まえて、このコーナーはあくまで「勝負」を基本とする内容ですので、展覧会に情熱を燃やしている方や、いずれは出陳してみたいという方には、いくぶんなりとも価値があるのではないかと思われます。
では、本題に入りましょう。下の写真はようやく眼が開き始めた生後半月過ぎに撮影したものですが、いずれもきわめてハイグレードな兄弟(赤・オス)です。
そこで、熟練オーナーの皆さんにクイズが一つ。この子たちのうちのどちらに、総合点で軍配が上がるでしょう。総合点で一方が一方に勝っていますが、もう一方はまったく負けているわけではなく、ある部分では総合点で勝っている犬をしのいでいます。これを的確に分析できた方は優れた観察眼を持っているといえます。
それでは答。総合点で優れているのは、向かって左側の子です。では、右側の子が左側の子に勝っている点はどこでしょう。それは、頭が大きいという点です。ベテランの皆さんはご承知のように、頭が大きいということは展覧会での勝敗の行方を少なからず左右します。頭が大きいことで、秋田犬のゆったりとした感じを表現でき、顔がふくよかになります。顔にふっくら感を出すために、ハンドラーは審査を受けている最中に、引き綱を吊り上げる行為を頻繁にします。
さて、総合点で勝っている子が同じステージに立ったとして、もう一方の子に常に勝ち続けるのでしょうか。そうではありません。双方ともベストコンデションで出陳したと仮定してですが、同じ兄弟でも成長過程で勝ち負けが入れ替わったります。最終的な成犬時にどちらが優れた犬として仕上がるかは、秋田犬界の最高権威と呼ばれる方ですら、「こればっかりは分からない。分からないから、秋田犬は面白いんだよ」といいます。
誤解していただきたくないのは、ここで論じているのはあくまで展覧会に出した際に、最高の栄誉である名誉章を狙えるほどのきわめて高い水準の素質を持った子に限ってのことです。ローレベルな子は「どんぐりの背(せい)比べ」で、兄弟のどちらが勝つか負けるか、という次元の話もさしたる意味をなしません。無論これは、展覧会のみを前提にした話ですが。
では、この子たちを名誉章を狙えるほどまでに仕上げられるのは、どのような人たちなのでしょうか。それは、展覧会で幾度も勝利を経験している百戦錬磨のオーナー、あるいは展覧会への出陳歴がわずか数年でも抜群の飼育・管理センス、旺盛な研究心、そして勝負に対して高いモチベーションを維持できる方です。
素人の方が、運よくこうした超ハイグレードな子を迎える幸運に恵まれたら、単に「家族の一員」として可愛がるのではなく、展覧会で輝かしい戦績を秋田犬界に刻むことが"使命"になるといっても過言ではありません。そのためには、信頼の置ける熟練オーナーと親しくなるなどして、展覧会に向けた管理や仕上げ方法のイロハを学びながら一歩、一歩、上を目指していくのがベストな方法といえるでしょう。 |