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胸の発達促進

 秋田犬の標準的な体高(接地面から背中の最も高い位置)はオス(成犬)で66.7センチ、メスで60.6センチとし、上下3.03センチまでが許容範囲とされていますが、まったく標準に達していない、「柴犬と秋田犬の中間ぐらいの大きさ」の秋田犬が、全国的に結構みられます。小さな体格のほとんどが血統からくるもので、「秋田犬の姿形をしていて、値段が安いので購入した」というケースに"小型秋田犬"が少なからずみられるようです。前述のように、これは血統に起因している場合が多く、成犬になっても比較的貧弱な体格のままですので、購入者の皆さんはたとえ不満であってもそれに甘んじてその犬と暮らすことになります。

 一方、標準の体格に十分になり得る秋田犬でも、飼育のノウハウを知らないがゆえに、貧弱ないでたちのまま成長させてしまうケースも少なくありません。その代表的な外見が胸の薄さです。秋田犬団体の「秋田犬の標準」に「胸は深くよく発達し、肋骨はよく張り……」という表現があります。優れた秋田犬は貧弱な胸をしていてはいけない、ことを意味します。

 血統的に体格に恵まれるはずの秋田犬が、なぜ貧弱な胸になってしまうのでしょうか。その原因として考えられる一つが、生後150日ぐらいまでの食餌です。この時期は、膝関節がまだしっかりと組まれていないため、走り込みなど筋トレで胸を鍛えようなどとしたら大方失敗し、関節を壊してしまいます。

 では、どうやって胸の発達につなげていくのか。朝夕たっぷりと食べさせ、食を太くします。そうすることによって、しだいに胸郭が開いていきます。それは胸を発達させる前段階としてきわめて重要なもので、子犬時を食が細いままで過ごすと、胸郭が狭いまま成長し、最終的に胸に厚みのない犬になります。つまり、正面から見ると薄く秋田犬としての迫力に欠けるということです。

 「たっぷりと食べさせ」という表現は漠然としていますが、明らかに食べ過ぎの場合は下痢便になりますので、すぐに分かります。便の状態を常に観察し、「下痢便にならない程度に、たっぷり食べさせる」ことです。無論、食べ残しは禁物で、必ず1回で食べ切る量を徹底します。

 それを実践しても、成長とともに胸が発達していかないと感じるようでしたら、次に考えられるのは胸骨端(きょうこつたん)の薄い血統であるということです。胸骨端は左右肋骨の中間ほどに位置し、それが厚いか薄いかが、外見的にも胸の厚い、薄いを少なからず左右します。展覧会でも胸骨端が薄いまま、まったく是正せずに出陳する犬がみられます。「たとえ秋田犬飼育のベテランであっても、胸骨端そのものの存在を知らない飼育者も多い」と、当地の熟練者はいいます。

 胸骨端の薄い秋田犬は、おおむね生後1年以内であれば運動によって是正が可能です。犬が2頭いるのが望ましく、1頭が前を走り、胸骨端の薄い犬が後ろを走るトレーニングをします。1人が1頭を前で走らせ、もう1人が胸骨端の薄い犬をすぐ後方で走らせます。後ろを走る犬は前の犬に追いつこうとするため、胸の筋肉により大きな負荷がかかり、胸の発達を促します。走るといっても全速力ではなく、速足程度でいいでしょう。

 ただ、ここで重要なのは「やりすぎは禁物」ということです。過ぎたるは及ばざるが如しです。やりすぎると、秋田犬の体型どころか、胸筋が必要以上に発達し、ブルドッグやボクサーなどのような体型になりかねません。それは、秋田犬には不似合いです。常に胸の厚みがどう変化したかを観察し、「満足のいく厚みになった」と感じたら、その時点で終了です。胸の運動ひとつ取っても漫然と行っていいものではなく、いかに観察眼と根気強さが要求されるかが、実践によってお分かりいただけるのではないでしょうか。

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