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幼年期と社会化期

 当クラブから秋田犬の子をお迎えになる皆様のほとんどは、「生後21日〜90日」とされる幼年期の中で最も可愛らしい盛りの生後60日から80日までの間に集中しております。そこでこのコーナーでは、幼年期に大切なことをご紹介しましょう。

 個性が出始める幼年期は、自分を取り巻く周囲のさまざまなことに興味を持ち、一生の中で最も順応性が高い時期です。しつけやすい時期なため、室内犬として暮らす場合にトイレを覚え込ませたり、歯磨き、シャンプー、爪切り、ブラッシングなどいわゆる「グルーミング」の習慣づけ、そして首輪やリードに慣れさせたり、「おすわり」や「おいで」を覚えさせるのにも最適な時期です。ただし、いやがるのを無理強いするのは逆効果ですので、スキンシップをはかりながらのんびりとやることが肝要です。

 ちなみに、「おすわり」を教えるにはドッグフードなどの食べ物を鼻先から頭上に移動して誘導する「ルアー・トレーニング法」や、「おいで」を教えるにはリードを飼い主の方に引き寄せる「身体的誘導法」などがあります。こうした補助的な刺激とともに、秋田犬に「指示語」を覚え込ませていきます。

 ルアー・トレーニング法では、愛犬が指示を理解しつつある、と感じたら毎回食べ物を与える方法から時々与える方法に切り替えていきます。これは「連続強化スケジュールから部分強化スケジュールに変える」と表現することもできます。

 身体的誘導法では、乱暴な誘導は百害あって一利なしで、優しく誘導するのが鉄則なほか、どこを触られてもいやがらないまでに十分スキンシップをしておくことが基本です。

 支部展や総支部展、本部展に出陳する秋田犬の"任務"は会場で微動だにせず威風堂々の立ち姿を披露することであるため、大会に情熱を燃やすベテラン飼育者は「おすわり」を教えることはほとんどありませんが、家族の一員としてのみ暮らすなら、それをしつけの一環として覚え込ませることは十分価値があるでしょう。

 ルアー・トレーニング法、身体的誘導法は、徐々に"小道具"や引き寄せるなどの動作を省略し、指示語だけで即応するようになれば「おすわり」「おいで」とも体得したことになります。徐々に省略していくことを「フェイディング」といいます。こうしたしつけは特定の人だけが行うのではなく、家族みんなが交代で行うことにより、誰の指示にも即応するようにします。

 また、庭先など同じ場所でのみ繰り返すと、別の場所では即応しないこともあり得ますので、どこに行っても指示に従うようにいろいろな場所で試みることをお奨めします。

 幼年期の食餌は少量ずつ、1日4回を目安に分けて与えると良いでしょう。胃がまだ小さいため、1度にたくさん与えるのは好ましくありません。そして、食餌の際に大切なのは便の状態を観察することです。下痢便の場合は1回あたりの量が多いか、与えるドッグフードを誤っていることなどが考えられます。

 他のページとも重複しますが、日本国内に出回っているドッグフードのほとんどは洋犬向きです。基本的に洋犬は、よほど低質なものでない限り、どんな銘柄のドッグフードを与えてもあまり表面的な変化は生じませんが、秋田犬は比較的敏感に反応します。秋田犬にベストマッチのドッグフードは国内に出回っている全銘柄の5%にも至らない、というのが当クラブの結論です。

 まったく的外れなドッグフードを秋田犬に与え続けると、最初の兆候として下痢便、かつ臭気の強い便に変化し、さらに与え続けた場合、早ければ半年以内、遅くとも2年以内に皮膚疾患に悩まされるリスクが高まりますので、ドッグフードの食べ始めとなる幼年期から「何を与えるか」を真剣に考えないと、後々愛犬を苦しめることになりかねません。与えるドッグフードに敏感なのは、秋田犬が弱い、ということではなく、「秋田犬特有の食に対するむずかしさ」と表現した方が妥当かも知れません。

 また、他犬種と同様、幼年期の秋田犬にとっても食餌の際は遊び食いをさせないことがとても重要です。遊び食いは、食べるのを中止して食器を離れるなど食餌に集中しない状態のことです。幼年期からこれを習慣化してしまうと、生涯にわたってだらだら食べる癖がつきかねません。あっという間に食べてしまうのが理想的で、少量でさえ15分以上かかるようだったら、心を鬼にして食器を片づけてしまうなどの対応をする必要があります。

 個体によって多少の差はありますが、授乳の際に母犬からもらい受けた移行抗体は生後2〜3カ月で消失して感染症に罹(かか)る危険性が高まってきますので、遅くとも生後90日までに混合ワクチンを接種します。

 犬ジステンパー、犬アデノウイルス1型感染症、同2型感染症、犬パルボウイルス感染症はいずれも死のリスクが高い感染症で、これを予防するワクチンを「コアワクチン」と呼びます。混合ワクチンで予防できる種類はこのほかに犬パラインフルエンザ感染症、犬コロナウイルス感染症、犬レプトスピラ感染症がありますが、生後何日で接種するか、何種類の混合ワクチンを接種するかについては獣医師に相談すると良いでしょう。

 さて、幼年期は生後21日前後〜84日前後の期間にあたる「社会化期」です。秋田犬として生を受けた子が、秋田犬特有の社会行動パターンを身につけなくてはならない最も大切な時期、それが社会化期です。つまり、他犬種を含む同じ犬仲間、そして人間に対してどう振る舞うか、などを学ぶべき時期です。

 生後21日前後で中枢神経系が完成するのに伴って自分が犬であることを認識し、母犬やきょうだいたちとのふれあいをとおして、どう振る舞うべきかを少しずつ体得します。併せて、毎日世話をしてくれる人の存在を知り、その人や家族の人たちにどう振る舞うべきもゆっくりと学んでいきます。

 やがて犬舎内を調べまわる探索行動を盛んに行うようになり、生後35日ごろからはきょうだいたちとのふれあいやケンカ遊びを通じてコミュニケーション能力や噛む力を加減することなどを覚えていきます。

 犬舎内に母犬やきょうだいたちと一緒にいることにより、一生にかかわる大切な事柄を学ぶことからすれば、生後56日前後までは母犬やきょうだいたちから引き離すべきではありません。

 社会化期に学ぶべきことを学ばずに新たな飼い主のもとに旅立った幼年期の子犬は、無論すべてがそうなるわけではありませんが、他の犬に対する恐怖や攻撃性が現れたり、人を恐れたり、無駄吠えが習慣化するなどのリスクを伴います。

 一例を挙げれば、仮にきょうだいが5頭いて、1頭が母乳をなかなかもらえずに成長が遅れたとします。作出者は犬用のミルクを与えたりしながら、何とかほかのきょうだいたちと同じ体格まで育て上げようとします。

 その際、その子だけ母犬やきょうだいたちから引き離して"特別室"で育てると母犬やきょうだいたちとのコミュニケーションが阻害され、学ばなくてはならないことを学ぶべき時に得られなかったことになりますので、後々問題行動が現れたりします。

 また、そのようなことは実際にはほとんどないと思いますが、秋田犬の子を家族の一員にしたものの何らかの事情で、迎えた子に生後110日前後まで食餌など必要最低限しか接してやれなかったと仮定します。作出犬舎もあまり手をかけていない、新たな家族もほとんどスキンシップをはかっていないとしたら、人間ならば人格形成にあたる、社会化がいくぶん、あるいはかなり困難になると考えざるを得ません。従って、幼年期の時点ですでにあまりかまってやれないと自覚している皆さんは、秋田犬に限らず犬を家族の一員にすべきではないということになります。

 社会化期に多くの人や犬たちと接する機会に恵まれた秋田犬は、フレンドリーで外交的な性格を構築できる可能性がぐんと高まることを念頭に置きつつ、日々の世話をしていただけたらと思います。

 ところで、生後35日前後から42日前後にかけては、それまで経験したことのない刺激「新奇刺激」に対する警戒感が現れる時期で、それは生後56日前後から70日前後にかけてピークに達します。「恐怖期」とも呼ばれるこの時期に、暴力的な虐待や餌を与えないなどのネグレクトといったストレスをかかると、心の傷として一生残り、将来、攻撃性や恐怖感、情緒不安定などの形で現れかねません。

 秋田犬の美の表現のひとつに「巻尾立耳」という言い回しがありますが、「恐怖期」にドアに強く尾をはさんでしまおうものなら、一生尾を巻かない秋田犬になることすらあります。

 このほか、子犬の"仕事"は眠ること、と認識していただきたいと思います。睡眠は、断続的に1日あたり18時間以上必要です。無理に起こしたりすれば、しつけや社会化に支障をきたすこともあり得ると、肝に銘じておきたいところです。

 幼年期に秋田犬を迎えられた皆さんは、きわめて重要な時期に大切な命を引き継いだことを強く自覚しながら「新たな家族の一員」に接し、誰にでも愛される秋田犬に育てていただきたいと思います。

 なお、狂犬病予防法では、生後90日以内の子犬を迎えた場合は生後91日以降に狂犬病予防注射を受けることとされています。よって、狂犬病予防注射の接種についてはこのコーナーの続編となる少年期以降のコーナーで触れてみます。

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