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家族の一員として秋田犬を迎えた方々の多くは、頭や顔、顎、首、わき腹、背中などを撫でたりしながらスキンシップをはかる。撫でるという行為は、子犬が成長してからも続くことであろう。 ブラシをかけたりシャンプーをする時は別として、当地秋田県の熟練者が秋田犬を撫でるということは、ふだんはほとんどしない。特に、当地の超ベテランオーナーとは5年近いつきあいになるが、「よしよし」と言いながらみずからの犬の頭などを撫でる光景は、見たことがない。 それは犬たちに愛情を注いでいないからではないし、可愛くないからでもない。そこからは、飼い主と愛犬、というより、張りつめた主従の関係を見るような気がする。例えば、時代物であれば「義経主従」などいう言い回しがある。「義経とその家来たち」という意味合いであろう。おとぎ話の「桃太郎」と犬、キジなどのような「家来」ではないが、当地の熟練者と秋田犬との接し方を見ると、オス、メスに限らず「主従」という印象を強く受ける。 恐らくそれは、展覧会という"戦(いくさ)場"に赴く主(あるじ)と秋田犬との絶対的な位置関係ではないだろうか。だから甘やかす光景は見たことがないし、といって必要以上に叱りつける姿もほとんど目にしない。「ホーレ!」の一言を浴びせられると犬はすっと主の顔を見上げ、たしなめられた理由を悟ろうとするかのごとき目の配りをする。 明らかにそこには、いちいち撫でたりしなくても、あい通じ合う、何か太い幹のようなものが存在する。あるいはその域に達するには主の側も、長い年月を要するのかも知れない。主も真剣勝負だし、秋田犬もまた展覧会の晴れ舞台で主のために満足のいく結果を出そうとする。「主従」の関係を意に汲んでいる秋田犬は、まぎれもなく勝負を自覚している。 |