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あるべき医の姿

  獣医師について当クラブは、複数のページで触れてきた。犬や猫に限らず広くペットが家族の一員である現代は、獣医師の存在がきわめて重要なのは言うまでもない。名医と呼ばれる人も全国には少なからずいる。テレビのペット相談などに出演する獣医師のアドバイスも参考になる。コラムの中で時おり指摘している「獣医師の力量には天と地ほどの差がある」という点はやむを得ないにしても、当クラブも獣医師に対しては敬意を払っている。

 ただ、今回はやや厳しい指摘をしなくてはならない。コラムで紹介すべきかどうか迷ったが、もしこれが一都市だけのことではなく、全国的な傾向だとすれば無視できないため、秋田犬の発祥地からあえて一石を投じたい。

  事の次第はこうである。最近子犬をお迎えいただいた方が、まったく新たな性質の相談をしてきた。差し障りがあるため、所在地は九州の大都市とだけ明かしておこう。

 「秋田犬を診てくれる獣医師を紹介してほしい」というのが相談、希望の趣旨だった。例えば、当地秋田県大館市在住の方が当クラブから子犬を迎えたのであれば、同じ土地に住むよしみで、「あの獣医師が最も優れています。秋田犬の診立てもベテランですから、そこをお薦めします」と返答できる。しかし、前述の方は当地から1,000キロ以上も離れている、みずからの所在地の獣医師を紹介してほしい、というのである。

 そうした相談をせざるを得なかった背景を知り、いささか驚かされた。

 秋田県であれば、秋田犬の故郷ですので秋田犬の専門の獣医師様が沢山いらっしゃるので問題ないでしょうが、(所在市名)の場合ですと嘆かわしい事ですが、 電話でお問い合わせさせて戴いても秋田犬は診きれない、 又は診た事がありませんというお医者様ばかりなのです。

 上記が、その方から頂戴したメールの本文だ。意外な実態が厳然と存在することに呆れ果て、さっそく当地の大ベテランに見解を求めた。「えっ、まさか! 同じ犬なのに!?」と、間髪を入れず驚愕の反応が返ってきた。

 確かに秋田犬発祥地である当地にも、秋田犬に関して最も信頼の厚い獣医師がいる一方で、「あそこへ連れて行ったら、逆さまつげの手術でも一生傷を残される」と言われるほど評価の低い獣医師もいる。冒頭で触れたとおり、力量には天と地ほどの差があることを如実に示しているが、何もそれは当地に限ったことではなく、全国、ひいては全世界どこでもそうであろう。

 しかし、「秋田犬は診きれない、 又は診た事がありません」とはまったく別問題である。そもそも秋田犬が珍種の犬、あるいはワニやカバなど別の生き物なら「診きれない、 又は診た事がありません」との反応に納得できぬではない。犬種によって個性に多少の違いはあれ、秋田犬もれっきとした犬科の生き物だし、日本を代表するといっても過言ではないほどの位置づけにある大型犬である。

 前述の文面からは、何カ所もの獣医師にあたってみたと受け取れる。その中の1人が「秋田犬は診きれない、 又は診た事がありません」というのであれば、1人ぐらいそんな未熟な獣医師もいよう、と一応納得する。しかし、そんな獣医師がごろごろいたというのである。

 大型犬で一括りして考えたとしよう。そうした「診れない」獣医師らは、同じ大型犬であるゴールデンレトリバーやジャーマンシェパードなど、洋犬なら診れて秋田犬は診れない、ということであろうか。ならば、なおさらもってのほかで、そのような獣医師は力量を評価されないだろうし、大切な犬を診てもらう飼い主の信用を得られるかどうかもいささか疑問だ。大学に戻ってもう一度、勉強をし直せ、と喝を入れたくなってしまう。

 以上のことは、獣医師が多数いる大都市ならではかも知れないし、あるいは今まで表面化していなかっただけで全国的なことかも知れない。全国的な傾向だとすれば、人間の暮らしのごく身近にいる犬について「この犬種なら診れる」「この犬種は診れない」と言ってはばからぬ獣医師が全国津々浦々に存在することになり、いささか深刻な問題だ。また、「診れない」獣医師があえて断らずに「診れない犬種」を手術でもすることになった場合、自信欠落や経験不足による失敗で後遺症や最悪の場合、死を招くリスクも有能な獣医師に比べて高くなる。

 前述の大都市の方には「最寄りの保健所や市役所担当課、県動物管理センターに相談し、良い獣医師を提案してもらうのも1つの方法だと思います」とアドバイスさせていただいた。まがりなりにも獣医師を生業(なりわい)としている者は、最低限、どんな犬でも診れる、と自信を持てるぐらいに腕を磨くのは当然のことである。そうでない現実に、はなはだ残念、と言わざるを得ない。 

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