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血を継ぐ確率

 今回は、展覧会での上位入賞に情熱を燃やす秋田犬オーナーにとって、多少なりとも興味深いかも知れぬテーマで論じてみたい。熟練者を中心に、秋田犬の子を作出する際、最も高い関心を寄せるのは「このオスとこのメスを交配すれば、どのような子が生まれるだろうか」という点、あるいは「このオスとこのメスを交配すれば、優れた子が生まれるのではないか」という期待ではなかろうか。

 「今度こそ、すばらしい子が生まれるはずだ」という自信とともに交配しても、なかなか1+1=2のような計算どおりうまくいかないのが現実であろう。秋田犬界最高峰に位地する名誉章を獲得できるほどの犬など、めった出るはずもない。だからこそ、秋田犬は奥が深くてむずかしいし、より優れた犬の作出に半生をかける熟練者も少なくない。

 さて、生まれた子犬は血族のいずれの影響を受ける確率が最も高いであろうか。犬という一括りからすれば、欧米あたりの大学教授や獣医などが論文にでもまとめていそうなテーマだ。恐らく犬種によってかなり違うだろうが、こと秋田犬についてはそれに関する論文は目にしたことはないし、日本に存在しなければ恐らく世界中のどこにもないだろう。

 生まれた秋田犬の子は、父の血を最も強く受け継ぐだろうか、あるいは母だろうか、それとも祖父、祖母、曽祖父、曾祖母、またはそれより前の代のいずれかだろうか。それを長年にわたって熱心に観察し、「これだ」と突きとめた秋田犬熟練者は、そもそも日本国内にいるのだろうか。当クラブが把握する限り、1人だけ存在する。その人は、長年の観察と研究で結論にたどり着き、実践し、秋田犬会館の博物室に展示されているいわば秋田犬の殿堂入り(名誉章犬)を幾度も果たしてきた。

 その人は学者ではないため、データとしてまとめておらず、論文で世に発表もしていない。俗に言う「門外不出」の理論である。そうした観点から、当クラブとしても生まれた子がどの血を最も強く受け継ぐ確率が高いかを教えていただいたが明らかにすることはできない。それだとこのコーナーを読んでいても今一つ面白みに欠けると思うので、一つだけ明かそう。秋田犬の子は、ある特定の血を60%の確率で受け継ぐという。「ある特定」とは父なのか、母なのか、あるいは祖父か祖母か、それ以前のどれか、かを明らかにできないのはもどかしいが、前述の方の了解を得られない限り、やむを得ない。

 仮に特定してみせたとしよう。それを知ることによつて、どのような組み合わせで交配したら優れた子が生まれるのかが、「手に取るように」といっていいほど分かることになる。最高の組み合わせのはずが、いつも肩透かしを食っている方などは、「そうか、血族のこの位地にこの犬を据えることによって、子は大きな影響を受けるのだな」と、はたと膝を打つであろう。

 今ここで言えるのは、血統書を手元に置いて毎日にらめっこしつつ、生まれた子を細部にわたって観察しなさい、ということ。そうすることにより、研究熱心な飼育者はやがて「子は、この位地の犬の影響を受ける確率が最も高いのではないか」と思える日が来る。しかし、漫然と飼育している人は、たとえ1枚の血統書を10年間、毎日見続けたとしても"解答"は得られないであろう。惜しみない努力でそこにたどり着いた人だけが、秋田犬"方程式"の解読者になれるのかも知れない。

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