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引き継ぐ大切な命

 国内では、犬の殺処分数が毎年減少している。平成29年度には、初めて1万頭を下回った。それでも、全国で8,362頭が各都道府県の動物管理センターなどで命を絶たれた。殺処分された犬たちの大半が、飼育者の身勝手な意識によるものである。子犬の時は可愛かったが成長したら可愛いと思わなくなったのでいらない、引越しを機に捨てていくことにした、おもちゃ感覚で子どもに買ってあげたが子どもが大きくなるにつれて興味を失い世話をしなくなった、など「捨てる」行為にはいろいろな背景があろうが、前述のとおり大半は人間の身勝手さに起因する。

 当クラブと提携している大ベテランの1人は、そうした哀れな犬を秋田犬の中から可能な限り出さぬために、2つの考え方に徹している。1つは、「犬は絶対にただであげるな」。1円のおカネも出していない犬ほど成長するにつれて粗末に扱われ、捨てられる例が多いことを長年見てきての結論だ。おカネを出して購入すれば、大切にしなければという意識が強まり、出したおカネの額が大きければ大きいほどそのモチベーションは高まると考えている。

 ただ、これには反論もあろう。例えば、近所で生まれた子犬をもらってきた家族が、その犬を粗末にするかといえば、粗末にする家庭もあるかも知れないし、その犬の終生にわたって大切にするかも知れない。前述の大ベテランは、「もらわれてきた犬はみんな粗末にされて捨てられる」と言っているのではなく、あくまでそうした傾向になりがちだ、と指摘しているのである。

 もう1つ徹底している点は「幼い子どもが子犬をほしがっても、飼育し続ける気持ちと自信が子どもの側にない限り、買い与えるのはやめた方がいい」。この考え方には、当クラブも同様の認識を持ち、「子どもにせがまれて秋田犬の子を買ってあげたいのですが」という家庭に送り出したことは、ほとんどない。

 家族みんなが、あるいは夫婦だけの世帯は夫と妻のいずれもが心から秋田犬の子を家族の一員にしたいと願っているのが、迎えるに際しての理想的な姿ではないか。かつ、購入の第1希望者は経済的に自立していない子どもではなく、あくまで大人であるべきだ。その上で、家庭教育などの意味を込めて「この子はお前が責任を持って世話するんだよ」と子どもに指示し、子どももそれを快く受け入れるのが、あるべき姿と思う。

 おもちゃやヌイグルミ感覚で子どもに買い与え、飽きたら廃棄物のごとく捨てる。動物管理センターなどで短い生涯を閉じなくてはならぬ犬たちの中には、そうして捨てられる犬もかなりの数含まれる。ある年の動物取扱者研修の際にビデオで、臨終の部屋に移動する何頭もの犬たちの姿を見たが、犬たちはどれもこれ以上ないほど悲しい眼をしていた。そしてまた、その仕事一筋に携わってきた担当職員も目に涙をうかべ、「この時が一番辛い」と苦渋の思いを吐いた。どれもこれも人間の身勝手さから、犬たちは否応なく死の瞬間を迎えねばならないのである。

 過去に最も不快と思えた事例を、本人を特定できぬ形で取り上げてみたい。四国の人とだけ、いっておこう。家族の一員として迎え入れたい第1希望は虎毛で、第2希望は赤か白、性別はメスという。大切な家族の了解のページにも記載しているように、購入にあたって家族の了解、合意形成がなされていることが秋田犬を送り出すにあたっての条件としている。

 その人は、メールで「家族の了解は得ている」と応えた。翌日、確認の電話を入れると母親が受話器を取り、「うちには犬、猫、兎、熱帯魚とペットがたくさんがおり、これ以上は飼えないから家族が反対したのに、了解を得たなどと言ったのですか?! 世話も自分では土曜、日曜ぐらいしかしないで、みんな家族に押しつけているのに」と話し、「了解を得た」などとは真っ赤な嘘であることがわかった。

 家族を困らせる嘘をついてまで秋田犬の子を迎えようとする人も珍しいため、「このような人が犬を不幸にする」との観点から、このコーナーで取り上げることにした。「以前から秋田犬がほしいとは言っていたが、昨日ドッグショーを見に行って、迎えたい気持ちがさらに高まってしまったのではないか。確かに秋田犬は可愛いけど、これ以上の数の飼育は無理」と母親は話し、息子の身勝手な行為を本人に代わって詫びた。

 当クラブは、繁殖者の深い愛情を添えて誰にも胸の張れる秋田犬を送り出させていただいている。特殊な事情で別の人に飼育を委ねねばならなくなった人はごく稀にいるが、「飼いたくなくなった」といって粗末にしたり捨てたりする事例は1件も聞いておらず、歳月を重ねれば重ねるほど愛情が深まっていくというお便りをたくさんの方々から頂戴している。送り出す大切な命を、迎えた方々に大切に引き継いでほしい。それが、当クラブと提携オーナーの皆さんの、最も大きな願いである。  (内容更新:2019年4月2日)

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