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多くのやり取りの中で、興味深いと感じていた"現象"がある。そこで今回は、その点に少しだけ触れてみたい。興味深いのは「ケージ」と「ゲージ」の表現。まずは、下の写真をご覧いただきたい。向かって左は一般にバリケン、正式にはバリケンネルと呼ばれている。また、右はケージと呼ばれている。いずれも犬を搬送したり、場合によっては小型犬などの室内犬舎として活用されている。 このうちケージについては、多くの人が「ゲージ」と表現していることを、経験から知った。初期のころは「それはゲージではなく、ケージです」と誤りを正していたが、きりがないので最近は指摘しないことにしている。 もともと英単語であるため、その違いは一目瞭然だ。「ケージ」のスペルはcage。英和辞典を開くと、鳥かご、(獣の)おりのほか、(エレベーターの)箱、(銀行などの格子のある)窓口、米国ではバスケットボールのゴールなどの意味がある。 対する「ゲージ」はgauge。米国ではgageとも書く。計量ざおを原義とし、標準寸法や規格、評価や判断の尺度・基準・手段・方法、計器、大きさ、容量、範囲などの意味がある。また、「計器で○○を正確に計る」という意味でも使われ、gauge the speed of the wind (風速を計る)という表現の仕方も。これからすれば、「ケージ」と「ゲージ」は互いに似ても似つかぬ代物だ。 しかし、日本では多くの人が「ケージ」を「ゲージ」と呼び、ペット販売目的のホームページや趣味のページなどでも、時おり「ゲージ」を目にする。あくまで感触だが、当クラブから子犬をお求めの皆さんを含めて全体の半数以上、恐らくは10人中7人ぐらいまでは「ゲージ」と表現する、と推察できる。 ではなぜ、「ケージ」を「ゲージ」と呼ぶのだろうか。無論、単なる勘違いが最も多いのであろうが、その根底には日本人特有の言語感覚があるように思えてならない。例えば、ドッグ(犬)を「ドック」と表現する人がいる。例えば、「ドッグフードをください」ではなく「ドックフードをください」という使い方。 有名企業を一例に挙げてみよう。調味料として欠かせぬソースに「ブルドックソース」がある。ブルドックソース株式会社は、英語標記では「BULL-DOG SAUCE CO.,LTD.」であるにもかかわらず、日本語ではあえて「ブルドック」とした。あまりにも知名度が高いゆえに、ほとんど誰も「間違いだ」「おかしい」などとは指摘せず、「ブルドックソース」と呼ぶ。 「ビッグ」を「ビック」と表現する人も多く、検索のGoogleに「ビックな」を打ち込むと、「ビックな遊園地」「ビックなお話」など「ビック」のオンパレードだ。類似例はほかにも散見できると思うし、「ケージ」と「ゲージ」もそうした言語感覚の同一線上にあり、多くの人が違和感を感じないのではないか。ゆえに、最近はそれを指摘せず、聞き流す、あるいは読み流すことにしている。
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