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今コラムは、優れた秋田犬が大量に中国へ流出している現状に対し、微力ながら警鐘を鳴らした「危機意識の共有を(1)」の続編である。この問題を真摯にとらえるベテラン飼育者は少なく、依然として大量流出に歯止めがかかっていない。 これに伴い、秋田犬への信頼を根底から揺るがしかねぬ"事件"も明るみに出た。中国では、秋田犬の偽造血統書が出回っている。秋田犬団体が2016年12月現在で把握できたのは5件と聞くが、「何でもありの中国」のこと。見つかったのが氷山の一角にすぎぬのは、予想に難くない。 中国での秋田犬購入者が秋田犬団体に名義変更手続きをした際、"一見本物"の血統書が提出されたのを受けて団体事務局が登録番号を照合するなどした結果、偽造が判明したという。 同団体は、血統書に刻印と透かしを入れる偽造防止策に乗り出した。さらに、秋田犬は本来、1度の出産頭数が最多でも8頭程度なのに対し、中国では10頭以上産まれたという不自然な申請もあることから、親犬の交尾写真や子犬写真の提出を義務づけた。 だが、さまざまな製品や著作物の海賊版を世界中にばら撒く中国のこと。いくら刻印と透かしを入れ、交尾や子犬写真の提出を義務づけたところで、偽血統の秋田犬が今後さらに大量に出回ることは間違いない。 偽血統の秋田犬を作り出すことは、数頭のオス、メスを所有する繁殖者1人でもできるし、秋田犬仲間がタッグを組んでもできる。例えば、1つの犬舎、または犬仲間同士の犬舎でほぼ同じ時期に異なる母犬から3頭ずつ産まれたとする。一方はきわめてハイグレードな血統、他方は並みの血統。ハイグレードな血統の子たちを3頭から5頭に"水増し"し、並みの血統が1頭だけ産まれたことにする。このケースでは、並みのグレードの子犬をハイグレードな子と偽って販売できる。恐らく中国では、血統書そのものの偽造などより、この方法が圧倒的に多いだろう。 日本国内でもそれをしている繁殖者に会ったことがあり、筆者は「あなたがしていることは、秋田犬への信頼を根底から揺るがす行為だ。秋田犬飼いとして、恥ずかしくないのか」と非難したことを憶えている。 また、「子犬だけ送ってくれればいい。血統書はこっちで作る」などという、双方遠距離の犬仲間同士の会話も、あるベテラン繁殖者からの情報で得た。無論、当クラブはこのような者たちと一切かかわりを持たず、真に信頼できる繁殖者としか協力関係を構築しないが、日本にもとんでもない繁殖者が存在することをこの場で明確にしておきたい。特定の当事者を暴露しても何も変わらないため、「子犬の購入には細心の注意を払っていただきたい」との思いを込め、事実を示すにとどめる。 日本でさえこうなのだから、中国など言わずもがなで、"偽装汚染"はウイルス増殖のごとく拡大していると推察される。このため、前述の秋田犬団体の対策はまったく生温く、本当に不正を根絶したいなら、産まれた子犬のDNA鑑定を義務づけるべきである。 とはいえ、それも無理な話だ。DNA鑑定には安くない経費がかかるため、全国の繁殖者の同意を得られるはずはなく、「問題になっているのは中国の偽血統だろ。なぜ、日本国内まで親子関係の真偽確認を義務づける必要があるのか」と猛反発を食らう。とどのつまり、これからも繁殖者のモラルにのみ依存するしかないということになる。 偽血統の秋田犬が出回ること、これ即ち、秋田犬への信用を貶め、飼育者の減少に直結する。まずは、中国への大量流出を深刻な問題としてとらえ、国内外問わず、適正な血統維持に向けた取り組みに本腰を入れるべきと考える。1人でも多くの繁殖者、秋田犬愛好家が危機意識を持つよう望みたい。
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