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優秀犬をどう作る
 
 素質に恵まれた秋田犬を生み出すむずかしさは、展覧会に情熱を燃やす全国のオーナーの誰もが痛感するところです。そうした中で、展覧会を視野に繁殖を手がけるオーナーは、いくつかに大別できるでしょう。良い顔を作るのに神経を注ぐ人、良い色を出そうとする人、良い構成を念頭に置く人、部分ではなく総合的な完成度を目指す人など。

 多くの繁殖者が直面するジレンマは、良い顔なのにほかの部分に満足できない、同様に、良い色なのに、良い構成なのに、というそれぞれの壁に突き当たってしまうことではないでしょうか。当地の大ベテランは、こう言います。「半世紀にわたって秋田犬を作りあげたとしても、真に満足のいく犬はなかなか出てこない。秋田犬は本当に奥が深い」と。

 例えば虎。色や構成に加えて良い顔を作るために、血統の中に赤を入れたりします。そうすることで、赤特有の良い顔が出る可能性がありますが、色がまずくなるリスクを伴います。

 虎は、標準的な色合いのほかに、黒の基調が強い黒虎、いくぶん白の基調が強く明度の高い霜降り、背中や腰など腹部を除く白い部分が赤い赤虎などが代表的な色です。色だけで展覧会を制することはできず、それ以外に優れた部分を有していないと上位入賞は期待できません。

 本来白いはずの腹部などが赤いと当地では「ごみ虎」と呼び、虎の品格を損なう色として嫌われ、展覧会でも最低ランクに甘んじなくてはならないでしょう。白を入れずに虎同士のみで何代も交配すれば、やがて「ごみ虎」が出てくることもあります。

 良い顔の白を作り出そうとして、白や虎に赤を交配することもあるでしょう。赤同士の交配によって生まれた白は確かに赤特有の顔を有する確率は高まりますが、それと引き換えに少々"邪魔"な色が部分的についてしまう可能性を覚悟しなくてはなりません。

 白と白、白と虎、虎と虎の各交配によって生まれた白は、祖父母など血縁に赤がいなければ純白の子が生まれる確率が高いです。しかし、赤をベースにして作出した子は、良い顔が出る可能性があるのに反比例し、体のいずれかの部分、例えば耳の縁、頭部、背中などにうっすらと赤色が入る確率が俄然高まります。

 全国の審査員や熟練者から「先生」と呼ばれる前述の大ベテランは「多くの繁殖者が良い顔を作るのに重点を置く傾向が強い。それは間違いだ。最優先すべきは構成」と強調します。つまり、顔以上に体全体のバランスが大切だと、何頭もの本部展名誉章犬を世に送り出してきた大ベテランは説いているのです。

 白に関連し、鼻の色に少し触れてみましょう。白い秋田犬の鼻は成長過程を経た最終的な標準色として、小豆色になります。生まれた直後から数十日程度鼻が黒い白の子でも、次第に小豆色に変わっていくのが一般的です。

 しかし、低い確率で鼻が真っ黒の子が生まれることがあります。無論、鼻が真っ黒い白毛だからといって展覧会で上位入賞できるというものではありませんが、低確率で鼻の黒い白毛が生まれる背景について前述の大ベテランは、こう説明します。「赤毛の鼻は黒と決まっている。赤を交配すると赤の血統の影響が表れ、生まれた白の子の鼻が黒いことがある」。

 となると、赤から生まれた白ですから、たとえ鼻が黒くても純白の毛になる可能性は乏しいのですが、ごく稀に赤の交配によって生まれた白の子で鼻が黒く、なおかつ純白の子がいます。こうした子が生まれる確率は、0.1%以下かも知れません。しかし、それほど低い確率で生まれた子で顔、色が良くても構成など他の審査箇所で"及第点"を得られなければ、展覧会での上位入賞はおぼつきません。

 とどのつまり、秋田犬界で最高位の本部展名誉章は、顔、色、構成をはじめとする多くの点で抜きん出てた犬のみが受章し得るといえるでしょう。それは、繁殖者が心血を注いで作った場合と、"突然変異的"に生まれた場合に大別でき、後者からは優れた子がなかなか出てこないという傾向がみられるようです。

 そうしたことから結論づけると、誰をも唸らせるような犬を作り、それを後につないでいくのは暗闇で針に糸を通すほどむずかしく、たゆまぬ努力と根気、かつ秋田犬への深い愛情と、人生をかけるほどの熱意がなければ不可能といえるでしょう。                HOME