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熟練オーナーともなりますと、生まれたばかりの子犬を一見しただけで、眼の力の有無を寸分の狂いもなく判断します。それは長年の経験がものをいい、一朝一夕では身につきません。
例をあげてみましょう。左の犬は大館市の熟練オーナー犬舎の代表犬で、「雄大」という形容がふさわしいほどスケールが大きく、顔、構成などどれを取っても申し分ありません。「なぜ本部展に出さないのですか。出せば、名誉章で最初にコールされるのに」と審査員に言われるほどです。 これほどの犬にもかかわらず生まれたてのとき、「ずいぶん小さな眼だ。これじゃ、展覧会では勝てない」と、ある審査員に嘲笑されたそうです。しかし、その審査員は成長した彼にデビュー戦ともいえる支部展で再会し、「あの犬がこうなったのか」と、いたく驚きました。もちろん展覧会では、他を寄せつけず余裕の1席です。オーナーは、その審査員の誇りを傷つけまいと口には出しませんでしたが、「眼に力のある犬になることは、生まれたときから知っていたよ」と苦笑したのでした。 その熟練オーナーが長年の経験に基づいて会得した、眼に力があるかどうかを見分ける技術を教えてもらいましたので、触りだけ披露しましょう。展覧会には興味がなく、純粋に家族の一員として秋田犬と暮らす方々には眼に力があろうとなかろうと、影響はありません。ここで論ずるのはあくまで、展覧会をベースにした話ですので、その点をご承知おきの上でお読みください。 |
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左の3枚の写真をご覧ください。これは、青森県の向井正弘さんご家族のもとへ旅立った桜号(メス)の、上から成長写真を掲載させていただいたものです。秋田犬の眼は何通りかありますが、ここで紹介するのは子犬時の眼です。見抜く力がある熟練者は、一番上の写真を見ただけで「すばらしい眼をしてるなあ」と、ため息を洩らします。「小さな眼」に見えますが、この場合「小さな」とは異質なものです。 このような外見の眼には「底目(そこめ)」と「糸目(いとめ)」があります。底目は下まぶたに力強さが備わっているため、成長するにつれて眼そのものに力が増し、一定の年数になっても下まぶたが垂れることはほとんどありません。本部展最高峰の名誉章を獲得した犬でも、数年後には当時の面影すらなく下まぶたが垂れ落ちてしまう犬もいます。「それらは皆、底目でないからだよ」と、前述の熟練オーナー。下まぶたが垂れるのはおおむね血統からくるもので、垂れない血統と意識的に交配しない限り、子、孫へと遺伝する傾向が強いようです。 では、底目か否かはいかにしたら見分けられるのでしょう。ハイレベルな技術を要するのですが、一言で表現するなら「底目は上まぶたに山がついている」と結論づけられます。改めて左の写真の上2枚をご覧ください。上まぶたに心持ち山状の形が見えませんか。これが大きな決め手となります。上まぶたに山状がないものが「糸目」で、どんなに良い血統でも眼に力強さは望めないでしょう。 一方、最も平凡なのが「どんぐりまなこ」の眼。熟練オーナーはその眼を見ただけで、「これでは展覧会で勝てない」と判断しますが、面白いもので、初めて秋田犬を迎えようとする素人さんが最も好みがちな眼が「どんぐりまなこ」です。文字通り、どんぐりの形でぱっちりとしているため、「かわいい〜」となるのでしょう。余談ですが、映画「ハチ公物語」(1987年・松竹)に出演した"子役"秋田犬も典型的な「おめめ、ぱっちり」のどんぐりまなこでした。 ここでは眼のみに焦点を当ててみましたが、秋田犬の審査箇所はきわめて多く、わずかな時間の中で次から次へと審査しなければならないため、審査員はその犬の最も優れた点と劣る点を中心に採点します。その中で、眼は強くアピールする力をもつ部位で、眼に力のある犬は審査員にも大きなインパクトを与えます。力のある眼は、勝利の決定打を放つ可能性を秘めた、頼れる"武器"といえるでしょう。 なお、ここで論じたのは赤毛の秋田犬で、子犬の時点で虎は虎特有の、白には白特有の眼の形があります。虎や白に赤の眼を期待するのは無理がありますが、交配の手法によって赤に近い眼を作り出すことは可能です。優れた赤の眼には、虎や白の眼ではなかなか太刀打ちできません。 |