「鼻欠け」という表現があります。秋田犬熟練者の間では、全国的に使われている言い回しではないかと思います。では、「鼻欠け」とは何でしょうか。下の写真は、生後約50日の虎の子です。鼻をご覧下さい。部分的に白くなっていますね。これが「鼻欠け」と呼ばれるものです。 色素の関係でこのような鼻で生まれてくると考えられますが、仮に5頭誕生したとすればおおむね1頭以上は出るようですし、場合によっては全部が鼻欠けということもあり得ます。では、鼻欠けとして生まれると不都合なことがあるのでしょうか。もちろん幼犬、若犬、壮犬、成犬の各成長段階の中でまったく白い部分が消えないとなれば、少なくとも展覧会での影響は大でしょう。 しかし、生後70-90日程度、遅い場合でも150-180日程度で鼻は真っ黒になり、一定以上に成長した秋田犬で鼻欠けのままというのは、ほとんど見かけません。面積が広い鼻欠けでさえ、跡形もなくなるのが通例です。 こんなことがありました。当地から海外に秋田犬の子を送り出した際、生後150日ぐらいになっても鼻欠けのままだったため、周囲の自称「秋田犬の先生」たちはこぞって、「秋田犬の鼻の白い部分は、2頭に1頭はなくならないよ」とアドバイスしたとのこと。 迎えた方は心配になって「本当にそうなのでしょうか」と訊ねてきました。当地の大ベテランは滅多に冗談を口にしない方ですが、さすがに冗談めかして、「その先生たちが正しいか、私が正しいか、賭けようか」と言いました。つまり、大ベテランは「絶対に黒くなる。その時期が早いか、遅いかだけの違いだ」と説明しているわけです。 日本にもたくさんいるように、海外にも自称「秋田犬の先生」は多く、特に海外の圧倒的多数は日本で秋田犬に触れたことすらないにもかかわらず、私の考えは正しいとばかりにアドバイスしようとする人が少なくありません。恐らくごく一部の来日者が、日本で誤った知識を得て、それを「先生」として周囲に広めているのでしょう。 ですから、海外では誤った知識が蔓延していると表現しても過言ではなく、秋田犬の審査員ですら例外ではありません。約20年にわたって日本で最も厳しい審査員として活躍した前述の大ベテランも「日本で学びもせず、海外の審査員が秋田犬を正しく審査できるはずはない」と"激辛"の評価です。
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