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といっても、鉄工所ならどこでも製作できるというものではなく、秋田犬の特性をある程度理解している製作業者が好ましいです。大工に発注、あるいはみずから製作したであろう木造の犬舎もベテラン飼育者の中にはたまに見られますが、木を噛みたがる秋田犬もおりますので、金属製の方がより良いでしょう。 犬舎の広さは、どの程度が妥当か。奥行きと高さが各1メートル20センチ、横幅が1メートル50センチあれば十分で、「やみくもに広くする必要はない」と当地のベテランオーナー。 四方が格子状のタイプは、風通しが良いというメリットがありますが、車庫や自宅の一角など、半室内的な位置にある犬舎も多く見られます。こうした立地に対して前述のベテランオーナーは「半室内的だと真夏などに風通しが悪く、健康上、また毛吹きの点から好ましくない」という見解。真冬はかなり寒くても大丈夫ですが、北国で積雪が多い時期は強い吹き込みを避けるため、犬舎の四方に覆いをかけるほか、保温性、衛生面からふんだんにワラを床面に敷き詰めたりしています。 さて、生後約5カ月以上経過した秋田犬に限った話ですが、広い空間を家の敷地内に確保できる環境にあると仮定し、日中広い空間で秋田犬を生活させる方法と、日中も犬舎の中に入れておく方法とでは、秋田犬にとってどちらが好ましいでしょうか。恐らく、多くの方が「広い敷地があるなら、何も狭い犬舎に閉じ込めておかないで、日中はのびのびと過ごさせたい」というのではないでしょうか。実は、前述のベテランオーナーは逆の考え方です。 いつも広い空間で暮らしている秋田犬は、いざ散歩をするときになっても嬉々とした様子に乏しく、日中自由に動き回っていることから、散歩そのものへの関心が弱まりかねないとのことです。広い空間で散歩に近い心理状態にいつも置かれているため、と推察されます。これに対し、犬舎内が生活空間となっている秋田犬は、散歩や運動の時になると全身で喜びを表すかのように、力強く闊歩(かっぽ)します。 「1日中広い空間にいる犬は体全体に緊張感が乏しく、犬舎内で暮らして決まった時間に屋外で運動や散歩をしている犬は体から力強さを発散させているので、展覧会で審査をしてもその違いはすぐにわかる」と、審査員歴20年を誇る前述のベテランオーナー。基本的に広い空間で暮らしている犬でも、展覧会が近づいてくると犬舎内での生活にシフトするオーナーもいるほどです。 しかし、まだ子犬の段階、つまり生後約5カ月以前は逆で、引き綱をつけない状態で可能な限り広い空間をみずからの意志で歩いたり、走ったりすることが、後になってきわめて重要なこととなります。これは前述のベテランオーナーの"門外不出"の理論ですので、子犬にとってなぜそうすることが良いかについては、ここで触れることはできません。子犬に広い空間を常時確保してあげられない飼育者は、1日5分程度でもいいですから、引き綱をつけずにみずから歩いたり走ったりできるよう努めることをお奨めします。 展覧会に勝負をかける人々は、手塩にかけて犬を作り上げていくことこそが大きな醍醐味で、どのような空間で暮らさせているかも勝敗の大きな分かれ目になるといえます。ただ、展覧会などまったく眼中になく家族の一員として一緒にいてくれるだけでいい人々には、広い空間で暮らそうが、犬舎内で暮らそうが、さほど重要なことではないかも知れません。 |