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"家族"との別れ

 他犬種と同様、秋田犬と暮らす人々はみな、愛犬の健やかな長寿を願う。しかし、天寿を全うすることなく突然の死が訪れ、深い悲しみにつつまれることもある。このコーナーでは、9年近い歳月をともに暮らした愛犬「那由他(なゆた)」を2012年に亡くした岩手県北上市の五十嵐育弘さんが当クラブに寄せてくれた文面と写真、そして長女、啓恵さんが那由他に宛てた「別れの言葉」を通し、大切な家族たる秋田犬を送り出すことについて秋田犬ファンの皆さんと考えてみたい。

五十嵐さんからの手紙(原文のまま)

那由他が6/20 19:00に骨肉腫により永眠いたしました。
8歳9ヶ月でした。

昨年9月中旬頃から症状がではじめ今年2月に確定診断されました。
那由他は断脚を勧められましたが、どうしてもできませんでした。
最後は鎮痛剤も効かなくなり絶叫するようになりました。
患部を手でおさえてあげると、「ありがとう」とその手を舐めてくれました。
骨肉腫を患った他犬種ではご飯をあげようとしただけで咬まれて病院へ行ったという例があるのに、
那由他は、秋田犬はなんて素晴らしい犬なんだとそのたびに泣けてきました。

那由他は家族を心から信頼してくれていて、こちらの与える薬を一生懸命飲み、
人間の20倍もの痛みといわれている骨肉腫の激痛に耐えながら必死で闘ってくれました。
声が枯れるまで苦しんだ後、嘘のようにスーッと呼吸が穏やかになり
5分程、とても安らかな顔になって、そのまま息をひきとりました。
あまりにも突然の別れでした。
最後の数分間、痛みから解放された那由他は、家族皆で楽しく過ごしている幸せな情景を思い浮かべてくれていたのでしょうか。

日々の散歩の折には多くの方々から立派だと声をかけて頂き、時には写真を撮って頂いたこともありました。
脚を引きずるようになって、台車やソリで散歩をするようになってからも、色々な方々に「早くよくなってね」と温かい言葉を頂きました。
ムダ吠えを一切せず、とても賢く、優しくて思いやりがあり、その反面、面白くひょうきんな一面も持っており、那由他といるだけでいつも笑顔になりました。
どうしてこんなに良い子なんだろうと、いつもそう思いながら那由他と過ごしてきました。
最後の想像を絶する激痛との闘いぶりは本当に立派でまさに武士そのものでした。
那由他は私たち家族の誇りであり、秋田犬の中の最高峰、まさに King of 秋田です。

那由他と過ごした8年7か月という月日は短くも、密度の濃い毎日で、心から幸せと思える日々でした。
那由他が家の子になってくれて、本当にうれしかったです。
那由他が残してくれた宝物を胸に、私たちはこれからも家族皆で那由他と共に過ごしていきます。

最高の秋田犬をお譲りくださりまして、本当にありがとうございました。
それなのに天寿をまっとうさせられなかったことを、誠に申し訳なく思います。

那由他の亡骸は自宅の庭に埋葬し花壇にしました。
毎日、祭壇とお墓を拝んでいます。
那由他の毛、爪、乳歯と写真を家族全員でいつも手にしています。
これから、那由他が生きていたころ以上に、那由他のことを大事にしていきます。

 

啓恵さんが那由他に宛てた「別れの言葉」(原文のまま)

なゆちゃん

今まで本当にありがとう。

えしよ(啓恵さんの愛称)は最後になゆに会いに行ってあげられなくて、
会いに来てくれたなゆはもう安らかな顔で目を閉じていたけど、
家についたら自分から目を開けて、えしよのことを見てくれたね。
それから、最後の夜、一緒にくっついて寝てくれて本当にありがとう。
いつもはふとんをかけたり、くっついたりすると、暑がってすぐよけちゃったよね。
でも最後だけは、ずーっと隣で、一緒に寝てくれていたね、ありがとう。

なゆ、なゆがものすごい痛みと戦ってる時に、私は自分と戦わないで逃げてばかりで、
勉強している途中に眠くなって寝てしまったり、遊んだりしてしまって、本当にごめんなさい。
でもこれからはなゆのように、辛いことから逃げずに戦い抜いて、力強く生きて行くよ

これから家族みんなで、前よりもっと仲良く、いつも笑って、1日1日を大事に過ごすよ!
なゆはいつまでも家族みんなの宝物だからね
今まで本当にありがとう。これからも、ずっとずっと一緒にいようね!!

なゆのことがだいすきなえしよより 

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通夜
那由他は、午後7時に息を引き取った。五十嵐ご夫妻は、那由他の体をきれいにしてあげた後、 那由他を車に乗せて一関の学校寮に住む啓恵さんを迎えに行った。「家族全員での最後のドライブ」。啓恵さんと会った時に閉じていた那由他の目は、家の着いた時、開いたという。 2時間以上かけ、啓恵さんは那由他の爪を磨いてやった。眠りに就いたのは午前3時。写真は、ともに育った那由他に添い寝をする啓恵さん。
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最後の散歩
もう立ち上がって歩くこともない那由他。想像を絶する痛みから解放され、「寝顔」と言ってもいいその顔は、穏やかですらある。家族は、台車に横たわる那由他に最後の散歩を楽しんでもらうことにした。
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お悔やみ
最後の散歩の道すがら、たまたま出会った人たちが、 お悔やみの言葉とともに那由他を撫でてくれた。生前も多くの人たちに愛嬌を振りまき、 多くの優しい手で撫でられた那由他。肉体はなくとも、その存在は人々の心に刻まれることだろう。
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墓地
五十嵐さんは、那由他が永遠(とわ)に眠るささやかな墓地を自宅敷地内の片隅に造った。悲しくせつない経験だが、家族には大切な"共同作業"だ。泣かずに笑顔で掘る。啓恵さんの気丈な姿が見える。
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「おやすみ」
いよいよ最後の別れ。那由他はこれからもずっとそばにいて、家族を見守ってくれる。だから、「さよなら」ではなく「おやすみ」。ともに暮らした歳月は何ものにも代えがたく、その面影はいつまでも色あせることはない。
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花壇
那由他が眠る地は、花壇となった。生前の那由他が家族を楽しませてくれたように、四季折々の花が色鮮やかに咲き、楽しませてくれることだろう。
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健やかなりしころ
元気いっぱいだったころの那由他と、五十嵐さん家族。ご家族はよく、那由他とともに5月3日に大館市で開かれる本部展を訪れていた。写真は2007年5月3日の本部展会場近くの駐車場で、当クラブが撮影。
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