「秋田犬を見るとホッとします」。これは、当クラブ最寄り空港の貨物係員が、秋田犬の子を入れたバリケン(犬搬送用のカゴ)を計量する際に、思わず口にした言葉です。この空港からも子犬が他県に向けて少なからず飛び立っていきますが、最近は洋犬もかなり多いとのことです。そうした中で係員は、秋田犬の子を見ると疲れも忘れてしまうほど心が和むそうです。

　洋犬では心が和まないのかといえば、決してそうではないでしょうが、日本人はやはり日本犬、とりわけ秋田犬にはほとんどの方が何の抵抗もなく手を差し出します。ハチ公の銅像の除幕式が渋谷で行われたとき、都内はもとより全国からハチ公を愛する人々が大勢集まったと記録されているほど、秋田犬は他犬種に引けを取らぬ強い愛情をいだかれる存在であることは言うまでもありません。

　それはなぜか。秋田犬が醸し出す癒しの雰囲気がそうさせるのではないでしょうか。世界の偉人のひとり、ヘレン・ケラーも同様で、彼女にとっても秋田犬はかけがえのない存在でした。彼女もまた、常にそばにいてくれる秋田犬に癒しを強く感じたことでしょう。

　「癒し」という観点から私たちには、とりわけ秋田犬との暮らしをお奨めしたい方々がいます。まず、夫や妻に先立たれるなどして独りでお暮らしの方。連れ添う相手がいない、いわば孤独を強いられる生活環境の中にいる方にとって、秋田犬は口では言い表せぬほど大きな癒しの効果があります。高齢になった父、母の独り暮らしが心配な息子さん、お嬢さんなどはお父さん、お母さんに秋田犬の子をプレゼントしてあげるといいでしょう。これまでの例からも、迎えたその日からとても喜ぶことは間違いありません。秋田犬の子を迎え入れることにより、生きる張りが新たに芽生えるのです。もちろん、認知症の予防にもつながります。そのようにして秋田犬と暮らし始めた方に、後悔している、いう方は1人もいないといっても過言ではありません。それは、人と秋田犬の双方が存在を認めあっているからです。

　次にお奨めしたい方々は、お子さんのいるご家庭。お子さんが小さい間は、生活環境によほどの問題がない限り、親子の会話は支障なく行われると思います。しかし、子育てというのはある意味ではとてもむずかしく、やがて反抗期を迎えて親と会話をしたがらなかったり、最悪の場合は親子の断絶ということもあり得ます。そこで、子どもが比較的小さい時点で秋田犬の子を迎えることによって親子間で永続的に共通の話題ができ、成長した秋田犬が親子の相互交流のかけ橋の役割を果たしてくれます。愛する共通の存在が家庭内にいること。これはきわめて重要です。現時点ですでに親子の会話がなく、仮に子が親を軽蔑するといった好ましからぬ段階に入ってしまっているとしても、秋田犬の子を家族の一員として迎え入れる価値は十分にあります。冷え切った親子関係を修復する可能性ももたらしてくれるのが、秋田犬の子なのです。

　さらにお奨めしたいのがご夫婦だけの世帯で、何らかの原因で心がすれ違ってしまっている方々。これはある意味では最も深刻ですが、やはり秋田犬の子を迎えて関係修復の役割を期待する価値は十分にあります。ただこの場合、いずれかが犬嫌いというのでは、迎え入れてもまったく意味がありません。夫婦の双方が犬が好きというのが絶対条件となります。秋田犬の子の成長をともに見守り、時にはその子を連れて夫婦でドライブや小旅行を楽しむことの意義は、はかり知れません。夫婦関係が"砂漠化"していないまでも、「最近、めっきり会話が少なくなった」という方々には、なおさらお奨めします。秋田犬の子を迎え入れることによって、会話や笑いを取り戻すことが期待できます。

　このほか、職場を定年退職して、することが何もない、という方にも秋田犬の飼育はお奨めです。校長先生だったある方は、職場では緊張の日々を過ごしていましたが、定年後は何もすることがなくなり、比較的短期間の間に認知症になってしまったそうです。官公庁、民間のいずれの職場にかかわらず、定年後に生きる張りを失ってしまう方は意外と多いものです。朝夕、秋田犬をつれて散歩することによって自分をリフレッシュするのもいいものです。

　これら一連のことに対し、「秋田犬じゃなくて、洋犬でもいいでしょ」という声もあるでしょう。しかし、前述の空港貨物係員の「秋田犬を見るとホッとします」ではありませんが、日本人の心を最も理解できるのが秋田犬であると私たちは確信しています。ヘレン・ケラーに代表されたような外国人の秋田犬愛好者は、秋田犬の存在に日本人の心とともに他犬種では得られぬ奥深い癒しを感じたはずです。スーパースター、スティービー・ワンダーが先の秋田犬が亡くなった際に、「今度も秋田犬でなくてはならない」と強いこだわりをもったことからも、それはうなずけます。孤独を和らげてくれる大きな"味方"、家族がお互いを思いやりながら幸福に暮らす"潤滑油"、夫婦の絆を確かめ合うための"かけ橋"、精神的な老いを緩和してくれる"安定剤"、その役割を果たしてくれるのが秋田犬なのです。