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輸送時の配慮

 このコーナーでは、ドライブを含めて秋田犬をマイカーなどで輸送する際に配慮すべき点に触れてみましょう。輸送は何点か方法があり、プラスチック製のバリケンネルや金属製のケージ(ゲージではありません)に入れて助手席や後部座席に置く例が多いと考えられます。また、ワゴン車などは愛犬が咄嗟に運転席などに移動しない加工をした上で、容器に入れず後部スペースで輸送中過ごすという例もあります。

 このほか、地方を中心に時おり見かけるのが、軽トラックの荷台でバリケンやケージに入れて運ぶ例です。きわめて稀に運転中の軽トラックの荷台に犬が直接乗っている光景を目にすることもありますが、これはよく訓練されたポインターやセッターなど狩猟犬の場合が多く、秋田犬が荷台に乗っている光景は当クラブも見た記憶がありません。どの例であれ、輸送中は車内の愛犬に気を取られて交通事故を起こさないことやストレスを与えないよう配慮することが肝要でしょう。

 輸送中、犬は嘔吐しやすい、といいます。2000年の創業以来数多くの子犬を全国の秋田犬ファンの皆様のもとへ送り出してきた当クラブの"経験値"から致しますと、朝の食餌を与えられていない、つまり胃の中が空っぽの状態でケージなどに入れて約30分輸送した場合、胃液がせり上がってきて口元が濡れている子と、何の変化もない、つまり不快を感じていない子の2種類に大別されます。

 その比率はほぼ7:3で、比較的短い時間でもクルマに酔いやすい子が秋田犬には多いといえるでしょう。しかし、成長とともにほとんどの子は車酔いしなくなり、ある程度長い時間耐えられるようになります。

 ただ、それは胃が空っぽの状態に限られるため、子犬ではなく若犬、壮犬、成犬になっても前の食餌から少なくとも4時間経過して胃の中できちんと消化してから輸送するのが鉄則に近いでしょう。水などの飲みものも同様で、飲んですぐに輸送すると、子犬でなくても吐き出す可能性があります。短距離輸送の際は、ドライブ前に餌を与える必要はないと考えます。

 一方、長時間輸送する場合は前述のとおり前の食餌から少なくとも4時間経過してから乗せ、休憩を取った際に喉が渇いた様子はないか、など細かく状態を観察します。明らかに喉が渇いていると感じられたら休憩中に水を与えるべきますが、運転再開とともにクルマの揺れで吐き出す可能性も否定できませんので、30分以上など少し多めに休憩を取ってから輸送を再開した方がいいでしょう。たとえ長時間輸送であろうと、餌はその日の輸送が完全に終了してから与えるのが得策です。

 次に秋田犬を入れるバリケン、ケージの適正サイズについて触れてみましょう。当地、秋田県大館市の飼育歴60年以上の先人(故人)は、かつてこう言いました。「輸送中はいつも座ったり寝そべったりしているので、容器の高さはそれほどいらない」と。

 確かに短時間の輸送では、それは許容されるかも知れません。しかし、長時間となるとそうはいきません。高さに乏しい容器の中で愛犬は立たないのではなく、立っても頭がつっかえるため仕方なく座っているとも考えられます。

 長時間輸送の場合、秋田犬もじっと座ったり横たわったままでは、さすがに辛いのではないでしょうか。輸送中寝ているように見えても、当然揺られているわけですから、犬舎などでの通常の睡眠とは基本的に状況が異なります。無論、輸送中も容器内で爆睡している"つわもの"もいますが、多くの秋田犬はたまに立ち上がったり方向転換したいと思います。

 人間も長時間ドライブの際、時おりパーキングエリアや道の駅などで車外に出て体を揉んでみたり、歩いたりします。それは、狭い空間から束の間解放されてストレスを発散させる感覚に近いものでしょう。犬はみずからの意志で車外に出ることはできませんので、せめて余裕をもって立ち上がれる高さが容器には求められます。例えば、欧州など海外に秋田犬を空輸する際、「高さは立った状態で頭上10cm以上のゆとりがあること」などが国際線貨物の規則に定められています。

 つまり、長旅のストレスを少しでも軽減するために縦、横、高さのサイズはある程度ゆったり確保する必要があるということです。また、長時間の輸送で鬱状態に陥る秋田犬も稀にいますので、常に注意を払ってあげるべきでしょう。

 さて、子犬の時からクルマでの移動に慣れさせる必要はあるでしょうか。答えは「必要」です。生後60日ぐらいから少しずつ慣れさせていくことをお奨めします。慣れることによって車酔いしなくなるのが早いほか、移動に伴うストレスも軽減できます。

 ここまでは季節の別なく輸送時の配慮について論じてきましたが、真夏の輸送に関しては避けて通れない問題ですので言及してみます。ご承知のように、地球温暖化の影響で真夏は毎年のように高温化し、地方によっては最高気温が連日38度前後という「命の危険」を感ずるほどの"熱波"に見舞われます。

 雪国秋田を発祥地とする秋田犬は冬の寒さにはびくともしませんが、夏の暑さにはほとんどが音を上げ、「暑くてたまらん」という様子をうかがわせます。よって、真夏の暑い盛りに秋田犬を輸送するのは避けた方がいいでしょう。真夏は通常でも暑さ対策に最大限の配慮をしてあげる必要がある中、輸送となりますとこれに過度なストレスがかかることは必至です。

 真夏の輸送途中に飼い主が、レストランやドライブインなどで昼食休憩を取ったとします。エアコンで車内をきんきんに冷やしておけば安心と考えがちですが、バリケンやケージ内の愛犬に真夏の直射日光が当たっていれば、たとえそれが数10分であってもダメージを受ける危険性があります。真夏の最も暑い季節は、秋田犬を連れてドライブに行こうなどと考えず、心地よい秋が訪れるまで待つことをお奨めします。

 真夏の暑さにめっぽう強い犬種もいるのかも知れませんが、当クラブが全ページにわたって論じている内容は秋田犬に特化したものですので、この点、くれぐれもご留意いただきますようお願い致します。他犬種と暮らしている方で「真夏でも、うちはどんどんトライブに連れて行くよ」という方もおられるかも知れません。秋田犬を飼育している皆様は、秋田犬が雪国生まれの犬種であることを常に意識していただきたいと思います。そうした思いやりも愛情、と当クラブは考えております。

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