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秋田犬を飼育なさっている皆さんは、 散歩の前に餌を与えるでしょうか。あるいは、散歩の後に与えるでしょうか。食餌のタイミングは、個々の犬の特性や犬種によって異なるかも知れませんし、小型、中型、大型犬とサイズによってもいくぶん違いがあるかも知れません。そこでこのコーナーでは、当地秋田県大館市の大ベテランが日ごろ行っている秋田犬への餌の与え方をご紹介しましょう。 当地の大ベテランは、犬の状態によって対応を変えるとしながらも、原則的には散歩の後に餌を与えています。そもそも、「散歩させる」とは言わず、「運動させる」と表現します。家族の一員としてのみ秋田犬と暮らしているのではなく、秋田犬にとって唯一の"舞台"といえる展覧会での1席獲りに向けて愛犬を鍛え上げるという意味を込め、「散歩」ではなく「運動」という言い回しをするのでしょう。そこからは、秋田犬飼育の熟練者としての高いプライドと勝負師の意地を感じさせます。 「散歩」ではなく、「運動」という観点でとらえた場合、これを人間、つまりアスリートなどに置き換えてみましょう。種目にもよるかも知れませんが、本格的に食事をしてからトレーニングや運動に臨む人は、あまりいないと思います。軽いサプリメントはともかく、食事後にトレーニングをしたのでは大抵の場合、胃がもたれるなどして期待どおりの成果を見込めません。一方、「散歩」という観点でとらえた場合、よく使われる表現が、食事をした後に「腹ごなしに散歩でもしてくるか」となります。 当地の大ベテランは、原則的には空腹の状態で運動をさせます。パブロフの条件反射ではありませんが、犬の脳には"この運動が終われば、食餌にありつける"という意識が刷り込まれています。飼い主とともに運動から戻ってきた秋田犬は、自分の犬舎が見えてくるや、一目散に中へと駆け出します。そして、これぞ至福の時、とばかり一心不乱に食餌に神経を集中させます。運動をした後ですから、食欲がないということはありませんし、ほんの短時間でぺろりと平らげ、ゆったりと休養に入ります。 その際、重要なのは犬舎に戻ってきたら速やかに食べられるように、家族の別の者が犬舎内に水やドッグフードなどをきちんと整えているということです。犬舎に戻った後も、しばらく食餌をおあずけでは、犬にとっても期待外れです。 ではなぜ、原則として運動の後に餌を与えるのでしょうか。食欲増進のため、が最大の理由でしょう。秋田犬の健康を良好に保ち、長生きしてもらう上できわめて重要なのは食餌のあり方です。食欲が旺盛であるためには、運動による空腹が望ましいですし、そうした食餌のあり方が最も理想的であることを優れた熟練者は十分心得ています。 そして食後、ある程度休養を取ったら、展覧会に情熱を燃やしている人は、上手に立つための立ち込みの練習などに入ります。ここで大切なのは、食餌は運動の後なのに対し、展覧会に向けた練習は食餌を済ませてからということ。空腹なまま、「それ、上手に立て」と言っても無理な相談です。空腹であるがゆえに落ち着かず、うまく立ってはくれません。 また、「たっぷり食べさせたから、うまく立ってくれるだろう」と過大に期待してもいけません。立ち込みは根気のいる訓練で、きょう10分やってみてうまく立たなかったら、明日また10分やってみよう、という具合に、短時間の繰り返しを日々行って初めて秋田犬も立ち方を次第に自覚し、展覧会で雄姿を披露してくれるものです。 良い素質を持った子を迎えたからといって、何の訓練もせずにいきなり展覧会で入賞できると安易に考えている素人の方もいますが、これは大きな間違いです。運動、食餌、立ち込みの練習、の基本ステップをきっちりマスターしないと、いかにすばらしい素質を持った秋田犬でも、初出陳でさんたんたる結果に泣き、がっくりと肩を落とすことになります。すばらしい素質の子を迎える機会に恵まれた方は、その点を十分認識すべきでしょう。 なお、前述のとおり「原則的」に運動の後に餌を与えるとしていますが、犬の状態や性格などによって運動の前に与える場合もあります。空腹であるがゆえに、散歩や運動に身が入らない犬がいます。そうした犬に対しては、先に餌を与えてから散歩に出ます。空腹時はすぐに犬舎に戻りたがる犬でも、食べてからは食餌のことは頭の中から消えてしまいます。
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