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迎える心構え3

 迎える心構え2」では、秋田犬を家族の一員として迎えるにあたっての心構えというより、1回あたりの量が決して少なくない糞(ふん)を片づけることが生理的にいやという方は、秋田犬と暮らすのに向かないことなどに触れました。今回も、どのような方が秋田犬と暮らすのに向かないかという点では、前回と同様のトーンとなります。

 では、結論から申しあげましょう。根っから散歩嫌いの方には、秋田犬との暮らしは向かない可能性があります。他犬種と共通しているかも知れませんが、秋田犬にとってもこの点は重要です。個々の秋田犬によって多少の差はありますが、秋田犬にとって最も大きな楽しみは、日々の食餌でしょう。続いて、主人を中心とする家族の皆さんとのスキンシップと、その延長線上にある散歩が挙げられます。

 主人と散歩をする秋田犬は、全身で喜びを表しているかのように路上を闊歩します。彼らにすれば、「待ちに待った散歩の時間」です。「秋田犬を迎えたいけど、散歩は面倒くさいなあ」という方があえて秋田犬を迎えた場合、最初は何とか努力をしても、しだいにしなくなる可能性があります。

 散歩をしなくなると、秋田犬は散歩をしない環境に慣れていきます。「なら、いいじゃない」と思うかも知れませんが、そこに大きな落とし穴があります。散歩をしないと"食っちゃ寝"状態が晩年まで続くわけですから、しだいに肥満化して心臓に負担がかかり、平均寿命よりもずっと早くお迎えが来るリスクが高まります。心臓への負担だけではなく、さまざまな疾病の原因にもなりかねません。つまり、秋田犬にとって散歩は、食餌などと同様に必須なものです。日々の食事とともに適度な運動が必要なのは、人間と何ら変わりません。

 ちなみに、ペットとしてではなく展覧会での上位入賞に長年情熱を燃やしているベテランオーナーなどは「散歩」と言わず「運動」と呼ぶ人も多く、運動を適切に行ったかどうかが展覧会での勝敗を大きく左右することも珍しくありません。ゆえに、ベテランほど散歩、運動は必要不可欠なものと考える傾向が強いといえます。

 子犬時から散歩をしない生活を続けると、社会とのかかわりが乏しくなりますので、成長期に向けての性格形成にも悪影響を及ぼしかねません。家族以外の人や他の犬などに慣れていないため臆病な性格になり、無駄吠えしたり威嚇する犬に変貌していくこともあります。溺愛、過保護の中で育てると、その傾向はさらに強まることがあります。家族以外の人たちと接する機会を積極的に設けることや、車道を走るクルマに慣れさせるなど、散歩が可能な月齢になったらきちんと外に出してあげるのはとても大切です。

 散歩を日課としている方は全国、そして世界中に数多くいます。自発的に散歩を楽しんでいる方もいれば、糖尿病や肥満傾向などで「もっと体を動かさなくてはいけません」と医師に促され、いやいやながら散歩をする方もいることでしょう。

 国内ではどれだけの方が散歩・ウォーキングをしているのでしょうか。公益財団法人笹川スポーツ財団が2017年9月に公表した1996年から2016年までの過去20年間の調査結果に基づくレポートによると、成人の年1回以上の散歩・ウォーキングの実施率は2016年で44.2%、推計人口4,592万人。20年前(1996年)の実施率22.3%、推計人口2,141万人に比べて倍増しました。

 うち60〜70歳以上の2016年の実施率は、年1回以上が55.6%、週1回以上が49.7%で若年層に比べて顕著に高い値を示したといいます。ちなみに、20〜30歳代は年1回以上が34.6%、週1回以上が19.6%、40〜50歳代が年1回以上が41.6%・週1回以上が27.2%。

 このレポートで残念なのは、毎日散歩をしている人の割合がどの程度なのかが示されていない点です。熟年世代はともかく、秋田犬を家族の一員として迎える比率が最も高い世代に着目すると、20〜30歳代で週1回以上が19.6%、40〜50歳代で27.2%。皆さんは、この割合は高いと考えるでしょうか。換言すれば、20〜30歳代で週1回以上散歩をしない人の割合は80.4%、40〜50歳代で72.8%にものぼるということです。つまり、秋田犬を迎えやすい年代の多くの皆さんは、散歩とは縁遠い暮らしをしていることになります。

 秋田犬は毎日朝夕1回ずつ、それが無理なら朝か夕方(夜を含む)のいずれか1回、散歩をしてあげる必要があります。根っから散歩嫌いの方、または散歩を生活の一部としていない方にとって、それは苦痛かも知れません。台風や大雪(寒冷地)など極端な悪天候の日はともかく、日に2度、または1度の散歩は愛犬の健康寿命が続く限り、毎日の日課としなくてはなりません。中には「散歩は嫌いだったけど、秋田犬を迎えてみたら散歩が病みつきになった」という方もおりますが、それが秋田犬を迎えた散歩嫌いの方すべてにあてはまるとは限りません。

 散歩嫌いの方には、はなっから「面倒くさい」という方と、「ご近所さんとの対面やあいさつなどが煩わしい」という方の2タイプに分けられようかと思います。どちらが秋田犬との暮らしがより不向きかといえば、前者でしょう。後者は、散歩そのものは億劫ではないことからすれば、クルマに乗せて移動するなどして散歩場所に変化をつけられる可能性を残しています。

 他犬種に比べ、秋田犬の注目度は全国的に高まっています。散歩中に、「秋田犬ですか。可愛いですね」などと言いながら、見ず知らずの人が近寄ってくることも多々あります。中には、ことわりもなく頭を撫でるなど無遠慮にスキンシップを図ろうとする人や、許可なくスマホなどで撮影する人もいます。そうした人たちの中には「秋田犬を飼っている人は誰にでも触らせる義務がある」などと、勘違いしているケースも少なくありません。

 周囲からもてはやされることが許容範囲に入る、または「むしろ好き」という方は問題ありませんが、散歩嫌いに加えて、見ず知らずの人が近寄って来て愛犬に触り、撮影することに不快感を感ずる方は、秋田犬を迎えるのは一層厳しいと考えられます。秋田犬は今後ますます国内外で注目の度が高まり、場合によっては散歩中に人だかりができてしまうこともないとはいえません。

 秋田犬を家族の一員に迎えようと考えている皆さんは「愛犬の生涯にわたって散歩につきあってやれるのかどうか」に加え、「無遠慮に近づいてくる人たちを愛想よく受け入れられるのかどうか」ということまで熟考してから、迎えるかどうかを最終決断すべきでしょう。

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