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博物館の怠慢

 忠犬ハチ公の色については、コラム「忘れられた色」で当クラブの考えを示しており、再びこのテーマでしたためることはなかろう、と考えていた。しかし、大館市に隣接する北秋田市のご出身で、都内に住んでおられる方からハチ公レプリカについての問い合わせがあったため、再度このテーマを取り上げてみることにした。

 その方からいただいた文面の中心部分を要約すると、こうなる。

 今年(2007年)は国立科学博物館の本館がリニューアルオープンし、数年ぶりにハチ公剥製の展示が再開されたので訪れてみた。「国立科学博物館カプセルミュージアム」と称し、所蔵品のミニチュア・レプリカが売店に並んでいた。 その中に「秋田犬 ハチ」の24分の1モデルがあったのだが、色が自分の思い描いていたものではなかった。中学生まで暮らした秋田県北の地で時おり見かけた秋田犬の「赤」とは違う……。

 無論剥製としてだが、ハチ公は2006年11月、秋田県に里帰りしている。国立科学博物館から秋田県に持ち込まれたのは19年ぶりで、「最後の里帰り」と銘打っていた。色あせたままにして本来の赤毛を白と誤認させるような同博物館の怠慢さに納得が行かず、2時間近くかけて会場の秋田県立博物館まで脚を運ぶ気にはなれなかった。きちんと修復していたなら、飛んで行きたかったところである。会場では、秋田犬団体の某支部長が展示にあわせて聴衆を前にハチ公論を語ったと聞くが、何の修復もせずにそのまま古里に持ち込まれたハチ公の姿を見て、その支部長も何ら違和感を感じなかったようだ。

 国立科学博物館は、ハチ公の色を本来の赤に修復しなかったばかりか、白い秋田犬としてレプリカを販売していた。それも、真っ白ではなく、長期間シャンプーをしないで放置すると薄汚れた色合いになる"白"である。ここまでくると、開いた口がふさがらない。同博物館の委託を受けた製作会社や作者の氏名にはあえて触れないことにするが、なぜこのように本物とまったく異なるものを平気で販売できるのか。

 色だけではなく、顔にも驚かされる。ハチ公は本来優しい風貌をしており、それがある種、国民の癒しになってきた。そのレプリカのように、いかつい面相はしていない。というよりレプリカのハチ公は、どことなく秋田犬を感じさせぬ面構えだ。顔立ちは百歩譲ったとしても、ハチ公の色を白として平然と販売する同博物館の神経が分からない。「色なんて、赤だろうが、白だろうが、どうだっていいじゃないか。どうせ犬なんだしさァ」という言葉すら、職員の間からは聞こえてきそうだ。

 ハチ公の色が赤なのか、白なのか、職員レベルで判らないなら、秋田犬団体に質問すれば事足りる。その上で製作すれば、ほぼ完璧にハチ公の色を再現できたはずである。同博物館も製作会社も、そうした基本的作業を怠り、「これがハチ公でござい」と、したり顔で販売している。とどのつまり、お役所仕事だから仕方がない、ということになるのだろうか。

 また、秋田犬団体関係者の誰も「ハチ公本来の色と違うじゃないか」と、同博物館にクレームを投じぬことも、博物館側に「これで良し」と思い込ませる一因を作っている。

 秋田犬の世界では、中心をなす赤、虎、白は色として厳格なもので、熟練飼育者などは色に強いこだわりを持ち、「もっといい色を出したい」と日々研さんを積んでいる。映画「ハチ公物語」にかつて登場したハチ公も、鮮やかな赤毛だった。日本を代表する博物館たる、国立科学博物館の無頓着ぶりには、ただただ呆れるばかりである。

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