BANNER0808.JPG - 66,727BYTES

青年期に大切なこと

 少年期に大切なことの続編となるこのコーナーでは、生後6カ月から2年までの青年期にあたる秋田犬の飼育面での留意点を論じてみたいと思います。早いメスでは、生後6カ月ごろに最初の発情期を迎えます。展覧会に情熱を燃やすベテラン飼育者のほとんどは、ごく普通に「発情」と表現します。これに対し、展覧会に興味はなく秋田犬を家族の一員としてのみ位置づけている一般飼育者の少なからずは「発情」に生々しい響きがあるため「ヒート」と表現したりします。

 「うちの秋田犬は生後10カ月になるのですが、まったく発情(ヒート)が来ません。どうしたものでしょうか」とおっしゃる飼育者を時おり見かけます。メスは生後6カ月から12カ月の間に最初の発情期を迎え、それ以降も6カ月から12カ月のサイクルで来ますので、期間には数カ月レベルの幅があることになります。

 ただ、最初の発情が生後6カ月から12カ月の間に来たものの、以降は不規則な秋田犬がいるほか、生後1年数カ月経過した、いわゆる「あきらめていたころ」に最初の発情が来た例もあります。

 さて、犬の食餌は長くても15分以内に終えるのが理想的ですが、1時間、場合によっては数時間経過しても食べきらない秋田犬がいます。もともと食が細く生まれついているか、おやつなどの間食を日常的に与えているがゆえに肝心の食餌時に空腹感が乏しいか、などいくつかの原因が考えられます。

 オスの場合、近所にいる発情期を迎えたメスの匂いを敏感に感じ取って食欲が低下することもあります。このほか、性別に関係なく盛夏期は暑さで食欲が著しく減退する秋田犬が多いのも事実です。

 最高気温が35度以上の猛暑日など、強烈な暑さで食欲が落ちるのは他犬種も同様かも知れませんが、雪国秋田が原産地の秋田犬は真冬の寒さに強い反面、夏の暑さは概して苦手です。無論、「うちの秋田犬は真夏も食欲旺盛」という方もいるため、この点は「個体差」でしょう。

 なぜこのコーナーで食餌に触れたかといいますと、生後8カ月が経過したあたりから肥満に注意しなくてはならないためです。人間と同様、肥満はさまざまな健康リスクを負いますので、青年期以降、「うちの犬は肥満になっていないか」と常に観察する必要があり、その一環として定期的に体重を測って記録することをお奨めいたします。

 さらに、青年期はメスなら不妊、オスなら去勢手術を考慮する時期ですが、秋田犬の場合、飼育目的によって方向性は二極分化されます。といいますのは、展覧会に情熱を燃やすベテラン飼育者は不妊、去勢手術を受けさせることはほとんどありません。展覧会で良い結果を出し、その血を次の世代につなぐという意志に基づくものです。

 これに対し、秋田犬を家族の一員としてのみ位置づける一般飼育者の皆さんは、動物病院のアドバイスに応じて手術に踏み切る方が少なくありません。性別による特有の病気にかかるリスクが軽減されるとして、獣医師も手術を強く推します。

 愛犬に手術を受けさせるかどうかは飼育者の意識が絶対的なものであるため、いちがいにその是非をひとくくりで結論づけられるものではないでしょう。ただ、手術に踏み切るということは愛犬を「中性化」させることであることを決して忘れてはならない、と考えます。

 人は自分の気持ちを犬に伝えるすべを、犬もまた自分の気持ちを人に伝えるすべを持ち合わせていないわけですが、「手術を受けた結果、自分が中性化されてしまうことをこの子は望むだろうか」、「手術の先にあるものは本当にこの子の幸福なのだろうか」ということまで考えてあげることこそが愛情であると思いますが、いかがでしょうか。

 最後に、ある一般飼育者の方の経験をご紹介し、このコーナーを閉じたいと思います。「うちの秋田犬は、大切な家族の一員です。でも、ずっと悩み続けたことがあるんです」と、その方は切り出しました。

 その方のオス秋田犬の青年期は、とても家族に従順でした。しかし、家族以外の人たちにはなかなか心を開きませんでした。嫌いな人に対しては、さわらせることを拒み、牙をむいてうなることもありました。

 「いつか噛傷事故を起こして取り返しのつかないことになるのでは、と心底悩みました」。そして、獣医師に相談した結果、去勢手術に踏み切ることにしたといいます。どこも悪くないのにお腹を開けるのには、最後まで抵抗があったとのことです。

 無事に手術を終えましたが、劇的な変化は見られず、相変わらず好まない相手には吠え、牙をむきました。そのような状態が何年も続き、8歳以降、つまり高齢期に入りました。若いころとは違う穏やかさが出始め、家族以外の人たちを少しずつ受け入れるようになってきました。

 「今も心残りなんです。去勢手術の必要が、本当にあったのかと。歳月がこの子の性格を丸くしてくれると信じてあげていれば、よかったのではないかと」。

 類似したお話はオスを飼育なさっている皆さんから少なからずうかがってきましたが、一方で「手術によってだいぶ性格が穏やかになりました」という方がおられるのも事実です。つまり、これもまた「個体差」ということになり、去勢手術で「中性化」して柔和になるケース、依然として気性が荒いまま、などいくつかのパターンがあり、手術をしてみないと結論が得られないようにも思えます。

 去勢、避妊手術を考えている皆さんは、一度決定したら絶対に後悔しないという域に達するまで、ご家族で何度でも話し合うべきでしょう。皆さんだけではなく、愛犬にとっても一生を左右する問題なのですから。  

HOME