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令和元年5月5日に急逝したつばきの訃報は、瞬く間に日本中を駆け巡った。本来ならマスコミなど見向きもしない、ごく普通の秋田犬だが「わさおの嫁」というネームバリューがある。ゆえに、メディアはその死をこぞって報じた。 「心臓発作とみられる」。ある新聞の一節。獣医師が解剖し、心臓内を確認していたなら原因は一目瞭然だが、明確な死因は判らずじまいだ。そこで今コラムでは、マスコミも触れなかったつばきの死因について「ある根拠」をもとに切り込んでみる。 つばきがどこで産まれ、夏場どれだけの期間、そこで暮らしたかが死因の鍵を握る。誕生犬舎での成長過程の間に罹患したであろうつばきは、わさおのいる犬舎に移っても一見何事もなく暮らしたかのように見えた。しかし、年を重ねるごとにある寄生虫ががん細胞のごとく体内を侵食し、やがて心臓に達し、限界を迎えた、と筆者はほぼ確信している。 心臓を開いてみれば、白い寄生虫がぎっしりと巣食っていたはずである。ここまで論ずれば、たとえ獣医師でなくても勘の鋭い愛犬家や同じ経験をした犬飼育者なら、寄生虫の名をたやすく挙げられるだろう。 筆者はこれまで、つばきを提供した犬舎に対して数回にわたって進言をしたが、聞き入れることはなかった。「このままじゃだめだよ。あなたの所で夏場を暮らした犬はことごとく伝染し、やがて行く先々で死んでしまう。すべての秋田犬を検査し、陽性ならすぐに治療しないと、他犬舎で被害を拡大させてしまう」。そう伝えた。 が、多頭飼育で暮らし向きが苦しいのか、取りあおうとしない。この状態を放置しておくと、やがて彼自身が自分の手で自分の首を締めることになるのだが、恐らく問題が表面化しない限り「臭い物に蓋」をしておきたいのであろう。 夏場に不快な思いをさせるある害虫が、病魔に冒されたつばきの血を吸う。害虫はわさおとちょめのもとにも飛んでいき、血を吸うと同時に、つばきから取り込んだ寄生虫の幼虫を何匹も体内に送り込む。幼虫は確実に成長、繁殖し、血管を通って最後は心臓に集まる。心臓はやがて悲鳴をあげ、前触れもなく死に誘(いざな)う。 国内外であまりにも有名な忠犬ハチ公も、がんとともに同様の病気に罹(かか)っていた。しかし、ハチ公はつばきの倍以上の13歳まで生き永らえた。これからすると、この寄生虫が血管や内臓を蝕んでも、どこまで生きられるかは犬の個体差が大きいと察せられる。 令和元年現在、わさおの推定年齢は12歳とみられ、ハチ公が他界した年齢に近い。検査の結果、つばきと同じ病魔に蝕まれるのを万が一回避していたとしても、同年5月8日に筆者が見た限りでは、動作の緩慢さや高齢での脂肪のつき具合、横になる時間の多さ、つばきを亡くした精神的ダメージなどから察するに、"X年"は令和2年、つまりハチ公と同じ年齢と思える。 しかし、寄生虫が心臓に達していたら、限界はずっと早いかも知れない。この病気は、症状が外目には判らず、時をかけて体を蝕み、いきなり死を迎える。ちょめもつばきと同じ犬舎から来ているだけに、わさおとちょめを1日も早く検査し、もし陽性なら、適切な治療をすべきだろう。2頭とも健康体ならむしろ喜ばしいが、明暗をはっきりさせる意味でも速やかな検査をお奨めしたい。 なお、今コラムの真の狙いは、つばきの死因の言及によって、この病気がいかに恐ろしいかを全国の秋田犬飼育者の皆さんに再認識してもらうことにある。誕生犬舎を公にしたり、批判することではない。 事実、つばきと同様の死を迎えた秋田犬を少なからず見てきた。予防措置に本腰を入れない犬舎は、ベテラン、初飼育にかかわらずむしろ多い、といっても過言ではない。とりわけ多頭飼の場合は、餌代を中心に多額の費用がかかるため、富裕層の飼育者以外は疾病予防に向けた経費の投入に消極的な面がある。だから、つばきを提供した犬舎だけが責められる理由はどこにもない。 みずから調べて病名を明確にすることで、読者の皆さんにとっても学習、勉強になると考える。ゆえに、このコーナーでは病名を含む肝となる部分を明かしていないことも、ご理解いただきたい。 (令和元年5月13日掲載) 関連コーナー/わさおの嫁、逝く
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